About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: A.P. Stolen(APストーレン)
Year: 1958
Material: Stainless steel Chrome-plated steel Beech upholstery
Size: W490–600 × D440–650 × H760–790 × SH380–460 mm
Story
AP38は、ハンス・J・ウェグナーが1958年に発表した、いわゆる「カストルップ(Kastrup)」あるいは「エアポート(Airport)」と呼ばれる一連の椅子群を代表するモデルです。ウェグナーといえば木工の名手として語られがちですが、このシリーズでは、公共空間に求められる清潔性や耐久性、そして視覚的な軽さを、金属構造と布張りの統合によって成立させています。布張りの椅子を「大きく重くする」ことで快適さを得るのではなく、構造そのものの設計で身体の居場所をつくる、という発想が核にあります。
AP38の造形上の要点は、両側面に露出する金属プレートです。これは単なる装飾ではなく、座面と背の支持に関与する構造要素であり、布張りのボリュームを引き締めつつ、使用環境が厳しい場所でも形状を保ちやすい合理性を備えています。また、座と背の間に意図的な抜け(中空)を設けることで、身体の荷重が一点に集中しにくい姿勢をつくり、同時に全体の見え方を軽くしています。金属とファブリックを対立させず、役割分担で一体化させるところに、ウェグナーらしい整理があります。
見えない部分の設計も重要です。外側が金属脚であっても、張り込みの土台となる内部には木製フレームが用いられ、布張りの張力や座りの安定を受け止める骨格として働きます。布張り家具を得意とするAPストーレンの製作技術が、こうした内部構造の精度と、端部の納まりの美しさを支えました。硬質な素材を表に出しながら、触れる部分はあくまで柔らかく、という矛盾を設計で解いている点が、この椅子の技術的な見どころです。
カストルップという呼称が示す通り、このシリーズは空港建築のスケール感やガラス面の多い空間と相性がよく、細い脚部と輪郭の明快さが、視界の抜けを妨げにくい家具として機能します。後年、同系統の意匠が別メーカーによって再編され、品番を変えて展開されていく流れも含めて、AP38は「木の時代のウェグナー」から「公共空間のウェグナー」へ接続する節目を示す一脚です。素材の選択が変わっても、身体への配慮と構造の誠実さを優先する態度は一貫しており、その思想が金属構造の上でも成立していることを、このモデルは静かに証明しています。

