AP52 Easy Chair | イージーチェア


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen(APストーレン)
Year: 1959
Material: Steel, Leather, Fabric, Rosewood, Teak, Oak
Size: W 600–710 × D 500–650 × H 750–830 × SH 380–460 mm


Story

AP52は、ハンス・J・ウェグナーが1950年代後半に手がけたスチールフレームのイージーチェアです。木工家具の名手として知られる彼が、あえて金属という工業素材に向き合った点に、この椅子の大きな意義があります。

製造を担ったのは、熟練した張り職人アンカー・ピーターセンが創業したAPストーレンです。同社は高度なアプホルスタリー技術で知られ、パパベアチェアに代表される彫刻的な椅子を世に送り出してきました。その技術的基盤の上に、より軽快で公共空間に適した椅子としてAP52は誕生しました。

フレームにはクロームメッキ鋼管またはステンレススチールが用いられ、視覚的な軽さと高い耐久性を両立しています。直線と緩やかな曲線で構成されたシルエットは、装飾を削ぎ落としたミニマルな造形です。しかし、その背と座の角度は人間工学的配慮によって実現されており、座面は適切な通気性と保持力を両立しています。

一部仕様ではアームレストにローズウッドやチークなどの木材が用いられています。冷たい金属フレームの中に自然素材を挿入する構成は、ウェグナーらしい身体感覚への配慮を示しています。触れる部分に温かみを残すという姿勢は、素材が変わっても一貫している思想です。

AP52は、コペンハーゲン・カストルップ空港の家具計画と関係する、いわゆる「エアポート・シリーズ」の系譜に位置づけられます。公共空間での使用を想定した設計は、強度とメンテナンス性を重視しながらも、寛ぎの質を損なわないバランスを備えています。クラフトから工業へという転換期において、ウェグナーが機能主義をどのように再解釈したかを示す重要なモデルです。

AP52は、過剰な表現を排しながら、構造そのものを美として提示しています。溶接部の処理やフレームの連続性は、木工家具における「継ぎ目の美学」を金属へ置き換えた試みといえます。ウェグナーが追求したのは、素材が何であれ、真実の構造がそのまま造形となる椅子でした。

結果としてAP52は、伝統的な手仕事の延長線上にある合理的な工房生産と、近代的な公共建築の要請を結びつけた存在となりました。工業的機能主義の中に人間的スケールを宿すこの椅子は、デンマーク・モダンのもう一つの側面を静かに語っています。

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