About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen(A.P. ストーレン)
Year: 1950s
Material: Oak, Teak, Fabric or Leather
Size: W670 × D620 × H900 × SH390 mm
Story
AP53Hは、ハンス・J・ウェグナーが1950年代に設計した布張りイージーチェアAP53のハイバック仕様です。デンマーク・モダニズムの成熟期に位置づけられるモデルであり、木工技術と張り込み技術の高度な融合を示す一脚といえます。
ウェグナーは生涯で500脚以上の椅子を設計しましたが、その中でもAPストーレンとの協業は、布張り家具の完成度を大きく高めた重要な関係でした。APストーレンは張りぐるみ構造に特化した工房であり、内部構造の堅牢さと精緻な張り込みによって、外観と快適性を同時に成立させています。AP53Hはその思想が明快に表れたモデルのひとつです。
造形的には、低重心で安定感のある座面に対し、背もたれを高く立ち上げることで頭部までを支える構成となっています。座面は後方へ緩やかに傾斜し、自然なリクライニング姿勢を促します。広めに設計されたアームは腕を安定して支えるだけでなく、立ち上がり動作を補助する役割も担っています。曲線は人間工学的配慮によって実現されており、視覚的な柔らかさと身体的な快適性を両立しています。
構造面では、内部に堅牢なビーチ材フレームを備え、その上にスプリングとクッション層を重ねる伝統的な構成が採用されています。ジグザグスプリングや手作業による紐縛りに近い支持構造により、荷重が均等に分散されます。これにより、長時間の着座でも安定した支持力を保ちます。外からは見えない部分にこそ、APストーレンのクラフトマンシップが集約されています。
木部には主にオークやチークが用いられ、テーパーのかかった脚部が全体を軽やかに支えます。アーム先端や接合部には、ウェグナー特有の滑らかな面取りが施され、触覚的な質感にも細やかな配慮が見られます。布張りのボリュームと露出した木部との対比は、彼の設計思想である「誠実な構造」を象徴しています。
AP53Hは、木工と張り込みという異なる技術領域を統合し、生活空間の中に静かな緊張感と安定をもたらす存在です。素材、構造、身体への配慮が高次元で融合したこの椅子は、20世紀デンマーク家具の到達点のひとつとして位置づけられます。
