AP65 Easy Chair | イージーチェア


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen(APストーレン)
Year: 1960
Material: Oak or Teak frame, Fabric or Leather upholstery
Size: W736 × D864 × H914 × SH457 mm


Story

AP65 イージーチェアは、ハンス・J・ウェグナーが1950年代後半から1960年代初頭にかけて到達した、静謐で建築的な美意識を体現するラウンジチェアです。製造を担ったのは、布張り家具の名門工房として知られるAPストーレンであり、ウェグナーと同社の協働関係から生まれた重要な一脚に位置づけられます。

同じAPストーレン製のAP19「パパベアチェア」が有機的で親しみやすい造形を持つのに対し、AP65はより抽象度の高いフォルムへと昇華されています。背もたれは高く幅広く設計され、低く抑えられた座面とともに、落ち着いた重心を形成します。そのプロポーションは視覚的な安定感と、身体をゆったりと受け止める包容力を両立しています。

構造面においても、AP65は見えない部分への徹底した配慮がなされています。内部フレームにはオークやチークが用いられ、堅牢な接合によって長期使用に耐える強度が確保されています。張り構造には伝統的なウェビングやスプリングが採用され、単なる柔らかさではなく、身体を芯から支える反発力を備えています。これはウェグナーが追求した人間工学的合理性の具体化でもあります。

木部の造形も本作の大きな魅力です。脚部からアームレストへと連続するラインは滑らかに削り出され、硬質な木材に触覚的な柔らかさを与えています。布やレザーに包まれたボリュームあるクッションと、緊張感のある木部フレームとの対比は、1960年代モダニズムの洗練を象徴しています。

AP65は単体のイージーチェアにとどまらず、2人掛け・3人掛けのソファへと展開されました。これは住宅空間のみならず、公共空間やラウンジにおける統一的なインテリア構成を意図した設計思想の表れです。木材の温かみを保持しながらも、直線的で建築的な構成を持つ本シリーズは、ウェグナーが有機的造形からより規律ある美へと歩みを進めた転換点を示しています。

AP65 イージーチェアは、彫刻性と合理性、クラフトとモダニズムが高度に融合した作品です。派手な装飾を持たず、静かに空間の質を高めるその佇まいは、時代を超えて評価され続ける理由そのものといえます。ウェグナーとAPストーレンの協働が生んだこの一脚は、デンマーク・モダニズムの成熟を物語る重要な存在です。

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