About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Plan Møbler(プラン・モブラー)
Year: 1940–1941
Material: Solid oak, leather, painted steel
Story
1940年代初頭のデンマークは、キャビネットメーカーの伝統と近代建築の合理性が鋭く交差する転換期にありました。のちにデニッシュ・モダンと総称される潮流が形成される直前、家具は装飾的な工芸品から、建築と一体化した機能装置へと役割を変えつつありました。A721 スウィベルチェアは、まさにその境界線上で生まれた作品です。
本作は、アルネ・ヤコブセンとエリック・ムラーが設計したオーフス市庁舎の内部家具として、若きハンス・J・ウェグナーが担当したオフィス用回転椅子です。市庁舎は「総合芸術」として構想され、建築・内装・家具・金物に至るまでが統合的に設計されました。A721はその一部として、日常的な執務に耐える実用性と、公的建築に求められる節度ある造形の両立を担っています。
構成は明快です。オーク無垢材による背と座のフレームに、革張りのクッションを組み合わせ、脚部には塗装スチール製の回転・昇降ベースを備えます。木部の温かさと金属機構の無骨さが正面から対峙し、建築的な緊張感を生み出しています。後年の有機的で彫刻的な椅子とは異なり、直線と構造が前面に出た表情は、ウェグナー初期の機能主義的姿勢を明確に示します。
特筆すべきはアームレストの処理です。先端に向かって広がるフレア形状は、作業時の支持性を高めると同時に、硬質なフレームに有機的なリズムを与えています。議場用家具で試みられた造形を、量産性と触感に配慮して革張りのキャップで実現している点に、若きデザイナーの現実的判断が読み取れます。
昇降とチルトは、露出したスプリングとレバーによる機械式です。現代のオフィスチェアのような隠蔽された機構ではなく、力の流れが視覚的に理解できる構成は、当時の技術的制約の中で機能を正直に表現しようとする態度の表れです。A721は、後の「ザ・チェア」やYチェアへと続く洗練の前段階に位置し、建築と家具、工芸と産業の接点を記録する重要な証言となっています。