Aarhus City Hall Hanger | 市庁舎ハンガー


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Plan Møbler(プラン・モブラー)
Year: 1940–1941
Material: Solid beech, metal hook
Size: L45 cm


Story

オーフス市庁舎ハンガーは、椅子やデスクの陰に隠れがちな存在でありながら、オーフス市庁舎という総体的芸術作品(Gesamtkunstwerk)の設計思想を、最小単位で体現した道具です。建築・内装・家具・金物に至るまでをひとつの秩序として組み上げる計画において、ハンガーは単なる付属品ではなく、日常の所作を受け止める「建築の末端」として扱われました。

このハンガーがビーチ材(ブナ)でつくられている点は、とても実務的です。市庁舎の一般エリアでは、壁面パネルにも明るい木質が用いられ、空間全体が硬質になりすぎないよう調整されています。ハンガーも同じ素材感でまとめることで、壁に掛かったときの視覚的なノイズを抑え、空間の温度を崩さないよう配慮されています。先端の丸みや肩のゆるやかな曲線は、衣服を傷めないための機能と、触れたときの角のなさを両立させる形です。

このプロダクトを象徴するのは、メーカー名よりも「Aarhus Raadhus」の刻印です。ここでは、作り手の署名よりも、市庁舎という公共機関の備品であることが前面に出ます。総合芸術としての統一感を守るため、個々の工房の色を消し、組織の道具として匿名化する。その思想が、焼印というかたちで明確に現れています。

製造者の帰属が「Plan Møbler、Axel I Sørensen、JCA Jensen のいずれか」と語られることがあるのは、まさにこの匿名性と分散生産の構造が重なった結果だと考えられます。オーフス市庁舎の規模で必要な什器点数を、単一の工房が抱えるのは現実的ではありません。量を担う製造者、特別室の密度を担う名匠、そして中量の特注や補完を担う地域工房が、同一の設計言語のもとで並走することで、全体の統一が成立します。ハンガーは、その分担が最も見えにくい一方で、最も端的に現れる対象でもあります。

ウェグナーの初期を語るとき、椅子の系譜や造形の到達点に視線が集まりがちです。けれど、このハンガーのような小さな道具に目を向けると、彼が当初から「空間の運用」を設計していたことが見えてきます。持ち上げ、掛け、外すという反復的な行為に対し、素材と形状で応答する。そこに、市庁舎の思想と、1940–41年という産業と工芸の結節点が静かに刻まれています。

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