About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen
Year: 1962
Material: Teak or Oak or Rosewood, Steel, Fabric or Leather
Size: W700 × D640 × H840 mm
Story
AP-51は、ハンス・J・ウェグナーが1960年代初頭に手がけた、スチールと木材、そして張りぐるみを融合させたアームチェアです。1950年代に確立した有機的な木製椅子の世界から一歩踏み出し、より建築的で現代的な素材構成へと向かった時期を象徴するモデルでもあります。
製造を担ったのは、張りぐるみ技術において高い評価を得ていたAPストーレンです。同社は「パパ・ベアチェア(AP-19)」をはじめとする高度な張り加工を要する椅子を数多く手がけ、ウェグナーの造形思想を立体化してきました。AP-51においても、その技術力は背座一体の滑らかな曲面構成に明確に表れています。
背もたれと座面はゆるやかに波打つようなフォルムで構成され、視覚的なリズムと身体への自然なフィット感を両立しています。この曲線は単なる装飾ではなく、背骨のラインを支えるための構造的配慮に基づくものです。包み込むというよりも、姿勢を整えながら支えるという設計思想が感じられます。
対照的に、アームレストは水平に伸びる直線的な板状の構造を採用しています。チーク、オーク、ローズウッドといった銘木が選択可能で、手が触れる部分にのみ木の温もりを残すという「適材適所」の思想が貫かれています。この直線的なアームが、波状の張りぐるみと緊張感のある対比を生み出しています。
脚部にはマットクローム仕上げのスチールが用いられています。細身で軽快なラインは、1950年代の木製四脚構造とは異なるモダンな印象を与えます。先端にわずかな曲げ加工を施すことで、硬質な素材でありながら視覚的な柔らかさを確保しています。
AP-51は、ラウンジで深く身体を預けるための椅子というよりも、会議室や書斎、ダイニング空間などでの使用を想定したアームチェアです。比較的直立した背角度と適度な座面高により、長時間の着座においても姿勢を保持しやすい設計となっています。
同時期にはAP-50やAP-52といったスチール脚シリーズも展開されていましたが、AP-51はその中でも汎用性の高いミドルバック仕様として位置づけられます。ベアチェア系統の包容力とは異なり、素材の対話と構造の明快さによって空間に緊張感をもたらす一脚です。
1960年代、ウェグナーは木という伝統的素材に加え、スチールという工業素材を積極的に取り入れ始めました。AP-51はその試みを端的に示すモデルであり、工芸と産業、温かさと冷静さを一体化させたデザインといえます。
素材の選択、構造の明快さ、そして身体との関係性。そのすべてが静かに整えられたAP-51は、ウェグナーの設計思想が成熟へ向かう過程を物語る存在です。過度な装飾に頼ることなく、機能から導かれた造形だけで成立するこの椅子は、時代を越えて現代空間にも自然に溶け込みます。

