About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen(APストーレン)
Year: 1958
Material: Beech Chrome-plated Steel Upholstery
Size: W 600–710 × D 550–730 × H 760–780 × SH 380–430 mm
Story
AP57は、1950年代後半に発表されたハンス・J・ウェグナーによる意欲的なアームチェアです。伝統的な木工の造形と、クロームメッキを施したスチールフレームという工業素材を組み合わせた本作は、北欧モダニズムの成熟期を象徴するモデルのひとつです。張り技術に定評のあるAPストーレンによって製作され、公共空間を前提とした堅牢性と、ウェグナーらしい有機的なフォルムを両立しています。
本作の最大の特徴は、脚部に用いられたスチールパイプと、座と背を支えるブナ材フレームの対比にあります。直線的で精密なスチール構造は、当時の空港や放送局といった近代建築との親和性を意識したものです。一方で、身体に近い位置に配置された木部は、緩やかな曲線を描きながら温かみを与えています。異素材の融合によって、工業製品としての合理性と、工芸品としての有機性が同時に成立しています。
背もたれは広く設計され、緩やかな後傾によって体重を自然に受け止めます。アームから背へと続くラインは、身体のカーブに沿うように計算されており、視覚的な軽快さと実用的な支持性を兼ね備えています。過度な装飾を排した構成でありながら、構造そのものが造形となる点にウェグナーの思想が表れています。
AP57は「エアポートチェア」とも呼ばれ、公共建築への導入を背景に設計されました。流動性の高い空間においても圧迫感を与えないシルエットと、頻繁な使用に耐える構造が求められた結果、軽快で強度のあるフレーム構成が選択されています。張り仕様はレザーやファブリックが用いられ、内部にはスプリングや天然素材を組み合わせた伝統的な構造が採用されました。
ウェグナーはデザインごとに最適な製造元を選定することで知られています。APストーレンは高度な張り技術を担う工房として重要な役割を果たし、複雑なクッション構造を持つ椅子を数多く製作しました。AP57は、木工・金属・張りという異なる専門技術が統合された成果であり、ウェグナーの設計思想が多角的に体現されたモデルといえます。
1950年代のデンマークにおいて、家具は建築と不可分の存在でした。AP57はその時代精神を背景に、近代建築の空間に適応する合理性と、人間中心の快適性を同時に提示しています。素材に忠実であること、構造を誠実に見せること、そして用途に応じて形を決定すること。これらの原則が静かに結晶した一脚です。
装飾に頼らず、素材と構造の関係性によって美を生み出す姿勢は、現在においても色褪せることがありません。AP57は、ウェグナーが追求した有機的機能主義のひとつの到達点として、北欧家具史の中で確かな位置を占めています。

