About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Plan Møbler(プラン・モブラー)
Year: 1940–1941
Material: Solid oak, leather
Size: W53.3 × D43.2 × H86.4 cm
Story
サイドチェア B102は、オーフス市庁舎のために設計された、ウェグナー初期の実務的な椅子です。後年の代表作に見られる彫刻的な存在感よりも、建築空間の秩序に従いながら、日々の執務に耐える合理性を優先している点に、この椅子の核心があります。
オーフス市庁舎は、アルネ・ヤコブセンとエリック・ムラーによって構想され、建築・内装・家具を一体として整える総合的な計画のもとで成立しました。B102は、その巨大な公共建築の内部で、会議や執務といった反復的な行為を支える道具として位置づけられています。単体で主張しすぎず、しかし空間の品位を落とさない、抑制された完成度が求められたタイプです。
意匠はアームレスで、輪郭は直線と緩やかな曲線の折衷にあります。脚部は過度な装飾を排し、構造の筋道が読めるように整理されています。一方で、背の立ち上がりや座の支えには木工家具としての密度が残り、機能主義の冷たさだけに振れない温度感が保たれています。オークの骨格に革張りを組み合わせた仕様は、公共施設に必要な耐久性と、触れたときの落ち着きを同時に成立させるための選択として理解できます。
このモデルが特に興味深いのは、いわゆるカタログ的な量産品というより、特定の空間や用途に合わせたカスタム性を帯びて語られる点です。そのため、同じ図面言語のもとで、Plan Møblerのほか、オーフスの工房であるAxel I SørensenやJ.C.A. Jensenが製作に関与した可能性が示されることがあります。見た目の差異を最小限に抑え、建築全体の統一感を優先するという市庁舎プロジェクトの姿勢が、ここにも表れているように思われます。
B102は、ウェグナーが「椅子の巨匠」として完成された語彙を確立する以前の、建築に奉仕する設計態度を静かに記録しています。華やかさで語られる椅子ではありませんが、公共空間の倫理と、素材と構造の誠実さが、そのまま造形に落ちている点で、オーフス市庁舎の仕事を象徴する一脚だと言えます。