Story
Baker Furniture（ベイカー・ファニチャー）は、アメリカン・クラフツマンシップの象徴として1890年に創業し、ヨーロッパ伝統様式の再現を通じて高級家具メーカーとしての地位を築いた工房です。創業者シーブ・ベイカーが大切にした「手」の哲学と、息子ホリス・ベイカーが加えた「目」の審美眼は、同社を単なる家具メーカーから、デザインの歴史を体現する存在へと発展させました。
とりわけ注目すべきは、1951年に始まったデンマークの建築家フィン・ユールとの協業です。彫刻的な家具を志向したユールの美学と、アメリカ市場におけるラグジュアリーな生産・販売網を持つベイカー社が出会ったことで、アメリカにおけるデニッシュ・モダン受容の歴史的転機が生まれました。代表作「ベイカー・ソファ」やチーフテンチェアの生産は、文化的な翻訳行為であり、職人技と工業的品質が融合した革新的試みでした。
この短命なパートナーシップは1957年に幕を閉じましたが、アメリカにおけるスカンジナビアデザインの認知を決定づけた遺産として今も語り継がれています。ベイカー社はその後も世界的デザイナーとの協業を続け、現在に至るまで高級家具市場での存在感を維持しています。
About
Year：1890 – 現在
President：Siebe Baker、Hollis S. Baker ほか
Designer：Finn Juhl（フィン・ユール）、Donald Deskey、Kem Weber、T.H. Robsjohn-Gibbings ほか
Place：Grand Rapids, Michigan（グランドラピッズ、ミシガン州）
History
1890：シーブ・ベイカーとヘンリー・クックがミシガン州アレガンで家具部材製造業を創業
1893：最初の家具製品としてデスクと本棚を製造、家具メーカーとしての歩みを開始
1900年代初頭：社名変更や所有権移転を経て、最終的にシーブ・ベイカーが単独オーナーとなる
1910年代：グランドラピッズ周辺の家具産業集積地で事業を拡大
1925：ホリス・S・ベイカーが社長に就任、「古き良き世界」の再現を理念に据える
1925：「Twentieth Century Shop」コレクション発表、アールデコやモダンデザインを導入
1920年代後半：Donald DeskeyやKem Weberらモダニストと協業
1932：「Manor House Collection」発表、ヨーロッパ伝統様式家具の高級複製品で成功
1930年代後半：歴史的様式研究を深め、社内に膨大なデザイン資料を蓄積
1941：「Baker Museum for Furniture Research」設立、1,500点超のアンティークを収集・保存
1940年代：第二次世界大戦期も高級家具メーカーとして存続、アメリカ国内での地位を強化
1948：MoMAのEdgar Kaufmann Jr.がフィン・ユールを紹介、ベイカーとの接点が生まれる
1949：ホリス・ベイカーがユールにコレクションデザインを依頼
1951：「Baker Modern Collection」としてフィン・ユール作品を発表、アメリカで初の本格的デニッシュ・モダン展開
1952：ブルーミングデールズで展示、ニューヨーク・タイムズなどで高評価を得る
1953-1954：ベイカー・ソファなどユール作品が富裕層家庭に普及
1955-1957：チーフテンチェアを短期間生産、オリジナルを忠実に再現する高度な職人技を発揮
1957：ユールとの協業が徐々に終了、コレクションは生産中止
1960年代初頭：伝統的スタイルへ回帰しつつも、T.H. Robsjohn-Gibbingsとの協業で新展開
1970年代：アメリカの高級インテリア市場でクラシック家具の供給を継続
1980年代：国際市場へ進出、ホテル・大規模プロジェクトへの納品を拡大
1990年代：Barbara BarryやBill Sofieldらデザイナーとの協業を開始
1998：チーフテンチェアを再生産するが、素材変更により評価が分かれる
2000年代：Thomas PheasantやJacques Garciaと協業、ブランドの再定義を進める
2010年代：グローバル市場での存在感を強化、アジア市場にも進出
現在：歴史的様式とモダンデザインの両方を扱う高級家具メーカーとして継続
Furniture
・The Baker Sofa
・Chieftain Chair（Baker version）
・Baker Modern Collection（1951）
・Manor House Collection（1932）
・Twentieth Century Shop Collection（1925）