椅子は人の身体とともに変わるのか|デンマークと日本の平均身長から考える家具寸法

家具が生まれた時代の「身体」から、ヴィンテージと現行品の違いを考える

家具の寸法は、誰の身体を基準にしているのか

ヴィンテージのデンマーク家具と現行品を座り比べていると、同じデザインでありながら、現行品の方がわずかに座面が高かったり、全体に大きく感じられたりすることがあります。製造方法や内部構造、材料の違いによるものもありますが、もう一つ考えてみたいのが、家具に座る「人間の身体」そのものの変化です。

家具は木や布によってつくられた造形物であると同時に、人間の身体を受け止める道具でもあります。座面高、奥行き、背もたれの高さ、アームの位置といった寸法は、人間の身体と切り離して考えることができません。

では、ハンス・J・ウェグナーやフィン・ユールたちが家具をデザインした1940〜50年代と現在とでは、人間の身体はどの程度変化しているのでしょうか。デンマークと日本の平均身長の推移をたどると、ヴィンテージ家具の寸法を考えるうえで興味深い事実が見えてきます。

1950年代のデンマーク人は、現在より小柄だった

現在のデンマーク人男性には、平均身長180cmを超える大柄なイメージがあります。しかし、デンマークモダンが形成された時代の人々が、現在と同じ体格だったわけではありません。

デンマーク統計局が残す徴兵男性の記録を見ると、平均身長は1896〜1900年の168.4cmから、1920年には169.4cm、1940年には172.5cmとなり、その後1980年には179.9cm、2000年には180.6cmまで伸びています。

ハンス・J・ウェグナーは1914年生まれです。彼が家具デザイナーとして歩み始めた1930年代から、デンマーク家具の黄金期となる1940〜50年代にかけて、若い男性の平均身長は170cm台前半でした。

つまり、ウェグナーの家具を「平均身長180cmを超える現代のデンマーク人のためにつくられた家具」として見ると、当時の身体感覚を少し見誤る可能性があります。デンマーク家具が生まれた時代には、現在とは異なる身体のスケールが存在していたのです。

日本でも同じような変化が起きています。厚生省の国民栄養調査では、戦後間もない時期の20歳男性の平均身長は161cm前後でしたが、その後170cmを超えるようになり、近年の若年男性ではおおむね171cm前後となっています。学校保健統計でも、17歳男子の平均身長は1948年の160.6cmから、その後170cm台まで伸びています。

調査対象や統計方法が異なるため、デンマークと日本の数字を厳密に横並びにすることはできません。それでも、両国ともこの100年ほどの間に人間の身体が大きくなってきたことは確認できます。

現代の日本人は、かつてのデンマーク人に近い

ここで興味深いのが、現在の日本人男性の平均身長と、20世紀半ばのデンマーク人男性の平均身長です。

1940年のデンマーク徴兵男性の平均身長は172.5cmでした。一方、現在の日本の若年男性はおおむね171cm前後です。数字だけを見れば、現在の日本人男性は、ウェグナーやフィン・ユールが家具をデザインしていた時代のデンマーク人男性に比較的近い身体スケールを持っていることになります。

もちろん、身長だけで人体寸法を比較することはできません。同じ身長であっても、脚の長さ、胴体の長さ、肩幅、骨格、体重などは異なり、座った状態での身体寸法が同じになるわけでもありません。

それでも、1950年代前後にデザインされたデンマーク家具を現代の日本で使ったとき、意外なほど自然に感じられることがあります。その理由を考えるうえで、当時のデンマーク人と現在の日本人の身体スケールが部分的に近いという事実は、一つの興味深い視点になります。

ヴィンテージのデンマーク家具を日本で使ったときに感じる「ちょうどよさ」は、北欧家具特有の繊細な寸法設計だけでなく、家具が生まれた時代の身体と、現在の日本人の身体との間に一定の重なりがあることとも関係しているのかもしれません。

人間が10cm大きくなっても、椅子が10cm高くなるわけではない

ただし、「平均身長が10cm伸びたから、椅子も10cm大きくなる」という単純な関係ではありません。

椅子の座面高に直接関係するのは、全身の身長よりも、床から膝裏までの高さである膝窩高です。座面の奥行きには大腿部の長さ、背もたれには胴体の長さ、アームの高さには肘の位置が関係します。

さらに、椅子は身体寸法だけで設計されるものでもありません。靴を履いて使うのか、ダイニングチェアなのかラウンジチェアなのか、組み合わせるテーブルの高さはどのくらいなのか、座面がどの程度沈み込むのか、どのような姿勢で座るのか。こうした生活環境や使用方法によっても適切な寸法は変化します。

そのため、人間の平均身長が数cm、あるいは10cm近く変化したとしても、家具に現れる変化は座面高の1〜2cm程度ということがあります。しかし、家具における2cmは決して小さな差ではありません。

Yチェアの「43cm」と「45cm」

そのことを考えるうえで分かりやすいのが、ハンス・J・ウェグナーの《CH24》、いわゆるYチェアです。

現在のCH24には、座面高45cmの仕様と43cmの仕様があります。その差は、わずか2cmです。しかし実際に座り比べてみると、足裏の接地感、膝の角度、テーブルとの位置関係は明確に変化します。

ここで重要なのは、43cmと45cmのどちらかを「正しい高さ」と考えることではありません。同じデザインの椅子であっても、使用する人の身体や生活環境によって適切な高さは異なります。

歴史的な家具を現代まで製造し続けるメーカーにとって、デザインの造形を守ることと、現在の使用環境に対応することは、必ずしも同じ問題ではありません。名作家具は美術館で保存されるだけのものではなく、現在も人が座り、日常のなかで使い続ける道具だからです。

名作家具は、同じ寸法のままではない

長く生産され続ける家具では、時代に合わせて仕様が見直されることがあります。

アルネ・ヤコブセンがデザインしたFritz Hansenの《Oxford Chair》も、その一例です。現在の製品では、オリジナルの特徴的なシルエットを維持しながら、ランバーサポート、座面形状、チルト機構、座面高の調整など、現代のオフィス環境やさまざまな体型への対応が進められています。

これは、「名作家具とは、発表当時の寸法や構造を一切変えずにつくり続けるもの」という考え方とは少し異なります。デザインのアイデンティティを維持しながら、使用する人間や環境の変化に合わせて更新することも、長期間生産される家具の一つのあり方です。

ただし、仕様変更の理由をすべて人間の大型化に結びつけることはできません。耐久性、安全性、生産技術、材料、規格、使用環境など、家具が変更される理由は複数存在します。「現行品の寸法が大きくなっている」という事実と、「現代人の身体が大きくなったため寸法を変更した」という設計意図は、分けて考える必要があります。後者を断定するためには、メーカーの設計資料や公式な説明が必要です。

ベアチェアのヴィンテージと現行品

この問題を考えるうえで、ハンス・J・ウェグナーのベアチェアは非常に興味深い存在です。

A.P. Stolenが製造したヴィンテージの《AP19》と、現在PP Møblerが製造する《PP19》を比較すると、一部の寸法やプロポーションには違いが見られます。実際に座り比べても、ヴィンテージの方を低く包み込まれるように感じる場合がある一方、現行品にはよりしっかりと身体を支えられる感覚があります。

こうした違いを見ると、現代人の体格変化との関係を考えたくなります。しかし、ベアチェアのような総張りのラウンジチェアでは、身体が感じる高さや大きさは、フレーム寸法だけでは決まりません。

内部にはスプリング、馬毛、植物繊維、ウレタン、張地、クッションなど、さまざまな材料が使われています。張り方や内部材の量、クッションの硬さ、座面の沈み込みによっても、実際に座ったときの身体の位置は変化します。

さらにヴィンテージ家具の場合、過去に張り替えや修復が行われているものも少なくありません。同じ年代、同じモデルであっても、現在の座り心地が完全に同じとは限らないのです。

そのため、ヴィンテージと現行品の違いは、人体の変化だけでなく、製造技術、材料、耐久性、品質管理、張り替え、そして数十年間の経年変化まで含めて考える必要があります。身体の大型化は、そのなかに含まれる一つの可能性であって、すべてを説明する答えではありません。

家具史のなかに「人間の身体」を見る

ヴィンテージ家具を調べるとき、私たちは通常、誰がデザインしたのか、何年に発表されたのか、どの工房が製造したのか、どのような木材や技術が使われたのかを調べます。しかし、もう一つ考えてみてもよいことがあります。その家具が生まれた時代、人間はどのくらいの大きさだったのか、という視点です。

1940年、デンマークの若い男性の平均身長は172.5cmでした。その後、1980年には179.9cmとなり、2000年代には180cmを超えています。日本でも、戦後から現在までの間に男性の平均身長は大きく伸びました。

家具だけが変わったのではありません。家具に座る人間そのものが変化しています。

もちろん、平均身長の変化だけから個々の家具の寸法変更を説明することはできません。しかし、家具をその時代の身体とともに見ることで、それまで単なる数字に見えていた寸法に、別の意味が生まれてきます。

椅子の座面高が43cmなのか、45cmなのか。その差はわずか2cmです。しかし、その2cmは、人間と家具が直接触れ合う場所にあります。平均身長、身体各部の寸法、生活様式、テーブルの高さ、内部構造、材料、製造技術。長く生産され続けてきた家具には、さまざまな時代の条件が重なっています。

ヴィンテージ家具を見ることは、過去のデザインを見ることだけではありません。その家具がつくられた時代に、どのような身体を持つ人々が、どのような暮らしのなかで家具を使っていたのかを考えることでもあります。

デザイナーと家具職人だけでなく、その椅子に座っていた人間もまた、家具史を構成する一部なのです。

参考資料

PAGE TOP