AP62H High-back Easy Chair | ハイバック・イージーチェア


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen
Year: 1965
Material: Teak / Rosewood / Oak, Fabric or Leather
Size: W760 × D800 × H920–990 × SH380–410 mm


Story

1965年に発表されたAP62Hは、ハンス・J・ウェグナーが1960年代半ばに到達した成熟した設計思想を体現するラウンジチェアです。1950年代の有機的で彫刻的な造形から一歩進み、より構造的で建築的なアプローチへと移行した時期の代表作といえます。

製造を担ったのは、1944年創業の椅子張り専門工房APストーレンです。同社は高度な張りぐるみ技術を得意とし、内部構造に至るまで妥協のない品質を追求していました。ウェグナーは木工構造と張り技術の両立を重視しており、APストーレンとの協業はその理想を実現するための重要な関係でした。

AP62Hの最大の特徴は、分解可能なノックダウン構造にあります。六角レンチとドライバーのみで解体・再組立が可能な設計は、国際輸送の効率化と長期的なメンテナンス性を両立させるものでした。1960年代に拡大する海外市場を見据えた、極めて合理的な工学的判断といえます。

座面下にはラバーウェビングを用いたサスペンションが採用され、金属スプリングとは異なるしなやかな反発力を実現しています。クッション内部にはフェザーを用い、身体を包み込むような座り心地を生み出しています。見えない部分まで配慮された構造は、ウェグナーの「構造的誠実さ」を端的に示すものです。

意匠面では、脚とアームの接合部に施された楕円形の埋木、通称「アイ」が象徴的です。本来はボルトを隠すための機能的要素ですが、ウェグナーはこれをデザイン上のアクセントへと昇華させました。構造から生まれた装飾が、そのまま視覚的アイデンティティとなっている点に、この椅子の完成度の高さが現れています。

ローバック仕様のAP62と比較すると、AP62Hは頭部まで支持するハイバック構造を備え、より深い休息を可能にします。背の傾斜角と座面高は、長時間の使用においても自然な姿勢を保てるよう計算されています。空間に強い存在感を放ちながらも、過度に主張しない佇まいは「控えめな贅沢」という概念を静かに体現しています。

AP62Hは、ウェグナーの代表作であるパパベアチェアとは異なる方向性を示す作品です。彫刻的な有機性よりも、構造と合理性を前面に押し出した設計は、1960年代のデンマーク・モダンが迎えた円熟の姿を映し出しています。機能と象徴が不可分に統合されたこのモデルは、ウェグナーの思想が最も明晰な形で結実した一脚といえるでしょう。

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