About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)
Year: 1953
Material: Oak or Teak, rattan (cane)
Size: W 66 × D 39 × H 45 cm / Seat Height 40 cm
Story
JH-539は、ウェグナーの「有機的機能性」を最小単位にまで凝縮したスツールです。低く構えた長方形の座を、繊細に絞られたテーパー脚と緩やかな面取りのフレームが支えます。視覚的に軽く、触れたときの滑らかさが際立つ仕上げは、工芸と造形の均衡を物語ります。
本作は単独の腰掛としてだけでなく、ラウンジチェアの前に置くフットスツールとしての最適解でもあります。特にアームの高い安楽椅子と組み合わせた際に、脚の角度と座面高さの関係が巧みに計算され、休息時の体圧分散を助けます。用途に応じて「座」と「脚載せ」を横断する可変性は、ウェグナーの家具観—空間の中で振る舞いを変える道具—を端的に示します。
素材はフレームにオークまたはチーク、座面に籐(ラタン)の手編みを用いる構成が確認されます。木部の選択に幅があるのは、高度な木取り技術を持つ工房が、注文ごとの要望や材の状態に応じて最適解を導いた結果です。籐座は通気性と適度な弾性を備え、着座時の温度・湿度変化にも穏やかに追随し、四季のある住環境で快適性を発揮します。
寸法値は資料によりわずかな差異が見られますが、これは手仕事の許容範囲内のばらつき、測定点の取り方の違い、張りのテンション差などが重なったものです。重要なのは数ミリの差ではなく、脚線と座の厚み、編みピッチと縁の見付けのバランスにより、軽快さと安定感を同時に成立させている点にあります。
JHの銘で示されるとおり、本作はコペンハーゲンの名工ヨハネス・ハンセン工房によって製作されました。職人の厳密な仕口と、エッジの微細な面取り、オイル仕上げの深い艶は、工房特有の品格を与えています。ウェグナーの構想を、素材の限界と美点を見極めながら具現化するこの協働体制こそが、本作を時代を超える日常具にしています。
JH-539は、デンマーク・モダンの黄金期に誕生した「小さな建築」です。空間の通風や視線の流れを妨げず、必要なときに寄り添い、不要なときは静かに退く。控えめでありながら、暮らしの質を底上げする存在感が、このスツールの本質です。