About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)
Year: 1970
Material: Chrome-plated steel, Leather
Size: W59.5 × D55 × H84(SH42.5)
Story
「JH 813」アームチェアは、ハンス・J・ウェグナーがキャリア後期に取り組んだ金属素材を用いた挑戦的な作品のひとつです。木工家具の巨匠として知られるウェグナーが、クロームメッキ鋼と革という工業的な素材を取り入れた点に、この椅子の特異性と革新性が表れています。
その起源は1947年にまで遡り、当初は木製で構想されていたと伝えられています。しかし時代が追いつかなかったため、実際の製造は1970年代に入ってからヨハネス・ハンセン工房により実現されました。つまり「JH 813」は、20年以上の時を経て再誕した作品ともいえます。
デザインは、鋼の直線的なフレームと革のしなやかな張り地が調和し、冷たさと温もりが対照的に際立つ造形です。ソリのような脚部とスリング構造のシートは、視覚的な軽快さと人間工学的な快適さを兼ね備えています。
ウェグナーとヨハネス・ハンセンの協力関係は、デンマーク・モダンの黄金期を象徴する存在でした。「ザ・チェア」や「ピーコックチェア」といった名作と同様に、「JH 813」もまた、その職人技とデザイン哲学の結晶といえるでしょう。
今日において「JH 813」は、ウェグナーの代表的な木製家具ほど知られてはいないものの、彼の創造性の広がりを示す貴重な証言です。工業的な美学と北欧的な機能主義を融合させたこの椅子は、ウェグナーのキャリアを俯瞰するうえで欠かせない位置づけにあります。