Model 302 Cabinet | キャビネット


About

Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィット & オルラ・モルガード=ニールセン)
Manufacturer: Søborg Møbelfabrik(ソボー・モブラー)
Year: 1956
Material: Teak
Size: W90 × D47.6 × H94 cm


Story

Model 302キャビネットは、ピーター・ヴィットとオルラ・モルガード=ニールセンによって設計され、ソボー・モブラーが製造した中型収納家具です。1950年代半ば、デンマーク・モダニズムが成熟期を迎える中で誕生したこの作品は、合理的構造設計と伝統的木工技術の融合を象徴しています。

デザイナーデュオの思想は、効率性と標準化を重視する「構造的合理主義」に基づいていました。戦後のデンマークが輸出産業の拡大を急ぐなかで、彼らは輸送や量産に適した構造を追求し、部品の標準化や組み立ての容易化を通じて、新しい工業生産モデルを提示しました。Model 302では、椅子で確立したこの哲学を、より安定性が求められる箱物家具へと応用しています。

外観は一見すると伝統的なキャビネットですが、内部構造には分解・再組立を前提とした精密な接合システムが導入された可能性が高く、輸出を見据えた構造的合理性が感じられます。また、脚部を細くテーパーさせることで、重厚なチークケースを軽快に見せる美的処理が施されています。これにより、視覚的な軽やかさと構造的安定性を両立しています。

最大の特徴は、前面に備えられた4枚のタンブール・ドア(蛇腹扉)です。扉が本体内部にスライドして収納されるこの機構は、前方に開閉スペースを取らず、都市生活における省スペース設計の典型例といえます。滑らかに動作するためには高い加工精度が必要であり、ソボー・モブラーの熟練職人による精密な木工技術が活かされています。

素材にはチーク材が用いられ、耐久性と寸法安定性が確保されています。仕上げはオイルもしくはソープフィニッシュで、素材の自然な美しさを引き立てながら経年変化を楽しむことができます。さらに、一部のバリエーションには籐(ラタン)パネルを組み合わせたモデルも存在し、椅子作品(Model 316・317)とのデザイン的連続性を示しています。

Model 302は、Hvidt & Mølgaardの技術的合理主義が、Søborg Møbelfabrikの伝統的クラフトマンシップと融合した結果生まれた成果であり、デンマーク・モダンの成熟を象徴する作品の一つです。

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