About
Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード=ニールセン)
Manufacturer: Søborg Møbelfabrik(ソボー・モブラー)
Year: 1956
Material: Teak
Size: W90 × D48 × H94 cm
Story
1950年代半ばにデンマークの家具工房ソボー・モブラーによって製造された「Model 304 キャビネット」は、Hvidt & Mølgaard-Nielsenによる設計哲学の成熟を示す代表的な作品です。素材には上質なチーク材が用いられ、正確な箱型接合(Box Joinery)によって構築されたこのキャビネットは、伝統的な指物師の技術と機能主義的な合理性を見事に融合させています。
Hvidt & Mølgaard-Nielsenは、1944年に設立したデザイン事務所を通じて、戦後デンマークの家具輸出産業を牽引しました。代表作であるAXチェアでは積層合板を用いたノックダウン構造を開発し、輸送効率を大きく改善しましたが、このModel 304ではまったく異なるアプローチを採用しています。収納家具という用途に合わせ、分解式ではなく固定式の堅牢な構造を選択することで、長期間の使用に耐える静的安定性を実現しています。
構造的特徴として、天板と側板の接合部には精密な指接ぎ(Finger Joint)が施され、木目の連続性と構造強度を両立させています。この技法は単なる接合手段ではなく、木材の美しさそのものを意匠的要素として活かす表現です。天板から側面へ流れるチーク材の木目は、無装飾の中に深い造形的リズムを生み出しており、素材の誠実さを重んじるデンマーク・モダンの理念を体現しています。
また、仕上げには天然の油分を多く含むチーク材の特性を活かした滑らかなオイルフィニッシュが施され、経年変化により深みのある色調へと変化します。構造、素材、仕上げのすべてが緻密に設計され、装飾に頼らない端正なバランスを形成しています。
ソボー・モブラーは、コペンハーゲン指物師ギルド展に数多くの作品を出展し、伝統的な木工技術を保持しつつ革新的なデザイナーの要求を高精度で実現する工房として高い評価を受けました。Hvidt & Mølgaard-Nielsenとの協働により、職人技と工業化の橋渡しを行い、デンマーク家具史における重要な成果を残しました。このModel 304は、技術的洗練と素材への誠実さが完全に融合した、静謐な機能美の結晶といえます。