About
Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード=ニールセン)
Manufacturer: Søborg Møbler(ソボー・モブラー)
Year: 1950s
Material: Teak, Brass
Size: W167 × D48 × H87 cm
Story
デンマークモダンデザインの黄金時代に生み出されたModel 309aサイドボードは、Peter Hvidt & Orla Mølgaard-NielsenがSøborg Møbelfabrikのために設計したモジュラーシリーズの代表作です。このシリーズは、キャビネットやチェスト、書棚などのユニットを組み合わせて構成する柔軟なシステム家具であり、戦後の新しい都市生活に対応するために設計されました。
彼らのデザインは、伝統的なキャビネット製作技術と産業的合理性を融合させることを目的としており、Søborg Møbelfabrikの高い木工技術によって実現されました。筐体にはチークの無垢材が用いられ、角部にはフィンガージョイント、引出しには精密なダブテール接合が採用されています。これらは単なる構造的手段ではなく、工芸的誠実さを視覚的に表現する意匠的要素でもありました。
また、Model 309aの最大の特徴であるタンブールドア(巻戸)は、扉を本体内部に滑らせて収納する機構を持ち、限られた空間での使用に最適化された構造でした。細いチーク材の縦板を帆布の裏地に貼り合わせて形成されたこのドアは、開閉時に滑らかに消えるよう設計され、デンマーク家具特有の静かな美学を体現しています。
素材として採用されたチーク材は、当時のデンマークモダンを象徴する素材です。耐久性と寸法安定性に優れ、経年によって深みを増す木肌の変化が魅力でした。この時代のSøborg製品の多くが突き板構造を採用する中で、Model 309aに見られる無垢材の使用は、製造品質の高さを物語っています。
このシリーズの背景には、Hvidt & Mølgaard-Nielsenの社会的理念が存在しました。家具を単なる装飾ではなく、日常生活の質を高めるためのシステムとして設計するという発想です。ユーザーが必要に応じてユニットを追加できる構造は、当時の民主的デザインの理想を具現化していました。
Søborg Møbelfabrik自体も、1890年の創業以来デンマークの家具職人文化を支えてきた工房です。Børge MogensenやMogens Lassenなど、名だたるデザイナーと協働し、ギルド展を通じてデンマークモダンの発展に寄与しました。後年、Carl Hansen & Sønに統合され、その遺産は現代まで継承されています。
Model 309aサイドボードは、工芸(Craft)、システム(System)、そしてコンテクスト(Context)が調和したデンマークモダンの象徴的成果物として、今なお静かにその存在意義を語り続けています。