About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: France & Daverkosen(フランス&ダヴァーコセン) / France & Son(フランス&サン) / House of Finn Juhl(ハウス・オブ・フィンユール)
Year: 1957
Material: Teak, Walnut, Oak, Upholstery
Size: W57.5 × D76 × H71(SH34cm) / W61 × D70 × H78(SH35cm, 現行品)
Story
ジャパンチェア(FD137)は、フィン・ユールが1950年代に発表したラウンジチェアで、日本文化から強いインスピレーションを受けて誕生しました。そのデザインの源泉は、広島県宮島の厳島神社の鳥居に見出すことができます。脚部に施されたわずかな膨らみ「エンタシス」は、鳥居の柱や日本の木造建築の意匠を思わせ、直線的な背もたれとの対比によって日本建築の抽象的美を椅子の形態に再構築しています。
フィン・ユールは、建築家としての視点から空間全体との調和を重視しており、この椅子は障子や畳、床の間といった日本的な空間に自然に溶け込む特徴を備えています。特に座面高が34cmと低めに設定されている点は、日本の床座文化への無意識的あるいは意図的な配慮と捉えることができ、デザインに込められた文化的共鳴を象徴しています。
また、この作品の魅力は視覚的な軽やかさにあります。座面と背もたれがフレームから浮いているように見える構造は、家具が空間を圧迫せず、むしろ空間に余白と緊張感を生み出します。この「浮遊する」構造は、建築における要素分解の考え方を家具に応用したユール独自のアプローチであり、単なる意匠ではなく機能的にも快適性を高めています。
素材には主にチーク材が用いられ、経年変化による色艶の深化は、日本文化の「侘び・寂び」と北欧の木材美学を融合させています。ユールが重視したのは家具単体の美しさではなく、空間全体の調和であり、チークやウォールナットの温かな質感が日本建築の素材と響き合い、静謐な佇まいを生み出しています。
ジャパンチェアは現在、House of Finn Juhlによって復刻され、当時の寸法や素材を忠実に再現した形で製造されています。ただし、オリジナルのヴィンテージモデルでは座面内部にスプリングが組み込まれていたのに対し、現行品は主にウレタン構造であり、座り心地には明確な違いがあります。この差異は、ヴィンテージモデルが芸術作品としての希少性と独自の存在感を放ち続ける理由のひとつです。
1950年代というデンマークデザインの転換期に生まれたジャパンチェアは、商業的量産と芸術的造形の双方を兼ね備えた作品として位置づけられています。デザインの発表年をめぐる議論(1955年か1957年か)はありますが、1957年にFrance & Sonとの協業強化の中で正式発表されたという点が有力とされます。この歴史的背景は、ジャパンチェアが単なる家具ではなく、文化の交差点に立つ象徴的な存在であることを示しています。