FD138 Easy chair | イージーチェア


About

Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: France & Daverkosen(フランス&ダヴァーコセン) / France & Son(フランス&サン)
Year: 1958
Material: Teak, Plywood, Upholstery
Size: W71 × D71 × H77(SH36cm)


Story

FD138イージーチェアは、1958年にフィン・ユールがデザインし、フランス&サン社によって製造された作品です。彼の初期の劇的で彫刻的なチーフテンチェア(1949年)とは対照的に、より成熟したデザイン哲学を体現しています。FD138は、ユールが追求した「運ばれる要素」と「運ぶ要素」の分離という原則を、工業的な大量生産の枠組みの中で実現した点に特徴があります。

フレームはチーク材を用いて軽やかに構成され、座面と背もたれは多方向に曲げられた合板によって成形されました。この技術的革新は、有機的で彫刻的なフォルムを保ちながら、大量生産を可能にするものでした。座面はフレームから浮遊しているように見え、木製構造の中に空間を生み出すユール独自のデザイン言語が表現されています。

また、FD138は当時の日本建築や美学から間接的な影響を受けており、洗練されたシンプルさや「浮遊感」が強く感じられます。ジャパンチェア(1957年)と比較されることが多いですが、FD138はより抑制されたエレガンスを備え、デンマークと日本の美意識を静かに融合させた作品といえます。

フランス&サンとの協業は、ユールのキャリアにおける重要な転換点でした。従来の一点物の作品から脱却し、国際市場に向けた普遍性と耐久性を備えたデザインを実現したのです。その結果、FD138は家庭用の空間にも適した実用性と美しさを兼ね備え、今日に至るまで評価され続けています。

この椅子の価値は、豪華な装飾や派手な主張ではなく、抑制された美学、技術革新、そして文化的な架け橋としての役割にあります。静謐な存在感を放ちながらも、確かな快適性を提供するFD138は、フィン・ユールの工業的芸術性を象徴する傑作といえるでしょう。

 

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