About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: France & Daverkosen(フランス&ダヴァーコセン) / France & Son(フランス&サン)
Year: 1965
Material: Rosewood, Teak, Leather, Fabric
Size: W83–85 × D80–85 × H77–78.5(SH41.5–44)
Story
FD218「ジュピター」ラウンジチェアは、1965年にフィン・ユールがデザインした後期の代表作の一つです。ユールは建築家としての訓練を受けながらも、家具デザインにおいては彫刻的な感性を前面に押し出し、実用主義的な潮流とは一線を画しました。その哲学は「運ぶもの」と「運ばれるもの」の分離に象徴され、フレームから座や背が浮遊するように見える独自の構造を通じて、軽やかさと有機的なフォルムを実現しました。
「ジュピター」は、ユールの芸術的ビジョンがフランス&サンの産業的合理性と融合した好例です。同社は分解・輸送の容易さを備えた構造を開発し、デンマーク家具を国際市場へと広める大きな役割を担いました。その枠組みの中で生まれたこのチェアは、単なる大量生産品ではなく、職人技と工業化のバランスを象徴する作品でした。
デザインの特徴として、アーム部分はチークやローズウッドの無垢材を削り出して形成され、滑らかで柔らかな曲線が空間に優雅な存在感を与えます。張り地は主にレザーが用いられ、ブラックやコニャック色が確認されていますが、アクリルとウールの混紡生地も一部に使用されました。木材はローズウッドとチークの両方が存在し、それぞれに異なる市場戦略や輸出の背景を映し出しています。
人間工学的な設計も特徴で、座面は深く、背もたれにはわずかな「しなり」があり、身体を優しく包み込みます。このしなりは構造上の欠陥ではなく、ユールが木材の特性を活かしながら快適性を追求した結果です。そのためヴィンテージ市場でも「非常に快適」と評され、実際に座った人々に強い印象を残しています。
「ジュピター」は単独のラウンジチェアにとどまらず、ソファシリーズも展開されました。これにより、統一感あるリビング空間を構築するための包括的なインテリアソリューションを提供しました。ハウス・オブ・フィン・ユールの現行コレクションには含まれていませんが、ヴィンテージ市場では希少性と完成度の高さから今なお高い評価を受けています。ユールの晩年の成熟したスタイルを体現する「ジュピター」は、芸術的感性と工業化のはざまに生まれた不朽のデザインとして、その存在意義を確立しています。