デンマークを代表する家具メーカー、フレデリシアがモーエンス・コッホの代表作「MKブックケースシステム」を復刻し、コペンハーゲンのデザインイベント「3daysofdesign 2025」で発表した。この出来事は、単なる製品復活以上の意味を持ち、デンマーク機能主義の遺産を現代に再び位置づける文化的なステートメントとして注目を集めている。
コッホはコーア・クリントに師事し、「デザインは様式の問題ではなく、必要性の問題である」という哲学を徹底した建築家兼家具デザイナーであった。1928年、自身の住居に必要な収納家具として構想したMKブックケースは、30年以上の改良を経て完成され、モジュール性・幾何学的精度・機能性を兼ね備えたシステム家具として評価されるに至った。

今回の復刻でフレデリシアは、オーク材とメープル材を用いた高精度の構造を継承し、伝統的な蟻継ぎや真鍮金具など、熟練職人の技巧を必要とする製造工程を忠実に再現している。製作には一人の職人が数日を費やすとされ、大量生産が不可能な水準のクラフトマンシップを保持していることが大きな特徴だ。
さらにフレデリシアは、ゲタマ社の工場火災を契機に、ライセンスをコッホ家から引き継ぐ形で復刻を実現。すでに買収していたスナゴーデン工房の高度な技術を活用し、正統な製造環境を確保した。これにより、同社は単に名作を復刻するにとどまらず、デンマークモダンデザインの正統な継承者としての立場を一層強固にしている。

国際的なデザインメディアからも高い評価を受け、『Wallpaper』や『Dezeen』はこの復刻を「今年の3daysofdesignで最も注目すべき復刻のひとつ」と評した。フレデリシアの発表は、「本物であり続ける(Keep It Real)」というフェスティバル全体のテーマと呼応し、真正性・持続可能性・知的伝統を体現するものとなった。
MKブックケースシステムは、現代のライフスタイルにも適応する柔軟なモジュール家具でありながら、世代を超えて受け継がれる耐久性と文化的価値を備えている。今回の復刻は、過去の遺産を未来に生かす試みであり、フレデリシアが掲げる「生涯を共にする家具」という理念を最も明確に示す象徴的な一歩と言える。









モーエンス・コッホとは
モーエンス・コッホ(1898–1992)は、デンマーク王立芸術アカデミーで学び、コーア・クリントの下で厳格な機能主義を吸収した建築家・家具デザイナー。ロスキレ大聖堂修復やデンマーク・デザイン博物館の改修といった建築分野でも功績を残した。彼の代表作であるMKブックケースは、建築的な精度と家具的な柔軟性を融合させた不朽のシステム家具である。