Model 312 Armchair | アームチェア


About

Designer: Jens Ole Møller(イェンス・オーレ・モラー)
Manufacturer: J.L. Møllers Møbelfabrik(J.L.モラー)
Year: 1981
Material: Oak / Walnut, Paper cord or Upholstery
Size: W 56 × D 52 × H 77 × SH 45 cm(参考値・仕様により前後します)


Story

J.L.モラーの「312 アームチェア」は、創業者ニールス・オットー・モラーの設計哲学を継承しつつ、次世代であるイェンス・オーレ・モラーが工房の方向性を更新した移行期の代表作です。日常の動作に寄り添うエルゴノミクスと抑制的な造形を両立し、ダイニングから軽いラウンジユースまで滑らかに対応します。

フレームは上方向にしなやかに立ち上がり、脚先に向かって繊細にテーパーします。視覚的な軽さと実用強度の均衡をめざした寸法設計により、テーブルへの納まりがよく、立ち座りの導線も自然です。背もたれは緩やかな傾斜とランバー支持を両立する断面で構成され、肩口にかけてのカーブが長時間の着座に無理のない姿勢を促します。

アームはテーブルトップとの干渉を避けるカットバックと手首の収まりを考えた曲率を持ち、袖口の擦れや天板への当たりを抑えます。全体の断面は過度な装飾を排し、継ぎ手の精度と素材の質感を前面に出す構成です。

座面には手編みのペーパーコード(または張り座)が用意され、通気性と保持力を兼ね備えます。ペーパーコードは一本取りで緊密に織り上げられ、使い込むほどに座面の面剛性が落ち着き、日常使用に適した弾性を保ちます。木部はオークまたはウォールナットを選択でき、同一樹種内でも色味と木理の調和を重視して選別されます。

J.L.モラーは組立てラインに依存しないベンチクラフトを堅持し、仕口の接着・仕上げ・面取り・最終研磨までを専門職が一貫して担当します。その結果、継ぎ手は構造要素であると同時に意匠の核として成立し、家具全体の静かな緊張感を支えています。312は、こうした工房の原則を1980年代の要求に合わせて精密に翻案した到達点であり、世代交代の確かな成果を示す一脚です。

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