Story
デニッシュ・モダンの核を成したデザインは、声高な造形実験ではなく、静かな確信と徹底した実用性から生まれました。アイナー・ラーセンとアクセル・ベンダー・マッセンのデュオは、その最良の実例です。二人はコーア・クリントの方法論を厳密に受け継ぎつつ、日常の使い勝手と材料の誠実さを詩的に統合しました。
ラーセンは椅子張り職人としての経験から、人体が触れるクッション性や張り地の挙動に特別な洞察を持ち、マッセンは家具職人として、構造・接合・耐久性に妥協のない眼差しを向けました。フレーム(骨格)と張り地(皮膚)を起点に、最初から一体として設計する彼らのアプローチは、快適性と構造美の高度な均衡を実現します。
創作の主舞台となったのは、コペンハーゲン家具職人ギルド展でした。毎年の出展は、設計→試作→検証→洗練という反復を促す創造のエンジンであり、名工ヴィリー・ベックの工房との緊密な協働は、微妙なRや接合寸法に至るまで理に適った完成度を保証しました。
代表作「メトロポリタンチェア」は、成形合板の背とアームを一体で曲げる構造により、軽やかさと包容力を両立。量産ではフリッツ・ハンセン、復刻ではカール・ハンセン&サンが担い、木部と革の対話が時代を超えて評価されています。書斎家具やゲームテーブルに至るまで、二人は住空間全体に通底する「抑制されたエレガンス」を提案しました。
彼らの作品は、流行の先端を誇示するためではなく、長い時間の使用に耐えながら静かに佇むために設計されています。だからこそ、今日においても古びず、使い込むほどに素材の魅力が深まり、住まいの背景として誠実に機能し続けるのです。
About
Year: 1916–2000(Aksel Bender Madsen)、1917–1987(Ejner Larsen)
Place: Copenhagen(コペンハーゲン)、Ringe(リンゲ)
Manufacturer:Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)、Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)、Willy Beck(ヴィリー・ベック)、Ludvig Pontoppidan(ルードヴィッグ・ポントピダン)、Næstved Møbelfabrik(ネストヴェズ・モーベルファブリック)、Bovenkamp(ボーフェンカンプ)
History
1940:デンマーク王立芸術アカデミー家具科を卒業(両名)、クリント学派の方法論を確立
1940–1943:A. ベンダー・マッセンがコーア・クリントおよびアーネ・ヤコブセン事務所で実務経験
1942:E. ラーセンが自作モデルを開始、家具職人ギルド展出展へ踏み出す基盤を整える
1946–1954:A. ベンダー・マッセンが王立芸術アカデミーで教鞭、後進育成に寄与
1947:ラーセン&マッセンとして共同スタジオ設立、ギルド展へ本格的に共同出展開始
1947:ヴィリー・ベック工房と協働開始、以後の出展作と小規模生産を長期にわたり担う
1949:メトロポリタンチェア原型をギルド展で発表、成形合板一体背肘の構造を提示
1950頃:フリッツ・ハンセンがメトロポリタンチェアの量産に着手
1950–1954:A. ベンダー・マッセンが王立芸術アカデミー校長を務める
1950年代:デスク、キャビネット、チェア各種を展開、L. ポントピダンやNæstved Møbelfabrikとも協働
1952:E. ラーセンがコペンハーゲンの公共施設内装部門で要職、実務設計と運営に関与
1956:コペンハーゲン家具職人ギルド年間賞受賞(ラーセン&マッセン)
1960:「The Arts of Denmark」展(ニューヨーク、メトロポリタン美術館)にメトロポリタンチェア出品
1961:コペンハーゲン家具職人ギルド年間賞再受賞、評価を確立
1960年代:ボーフェンカンプのためのデンマーク様式導入・設計(Edith/Karenラウンジチェアなど)
1966:ゲームテーブルを発表、素材・仕立ての精度を見せる住空間提案を拡張
1970年代:住宅・公共空間向けの実務案件と試作を継続、細部の洗練を深化
1987:E. ラーセン逝去、デュオとしての活動に終止符
2000:A. ベンダー・マッセン逝去、作品群が美術館収蔵・研究対象として定着
21世紀:カール・ハンセン&サンがメトロポリタンチェア(LM92)を復刻、国際的再評価が進行
Furniture
・Metropolitan Chair LM92(成形合板一体背肘/レザー仕様)
・Armchair LM92T(座面レザー張り・背ベニヤ見せ)
・Executive Desk(片袖/両袖、チーク/ローズウッド、インセット引出し)
・Work Desk with Drawer Unit(モジュール式引出し一体)
・Game Table(革張り天板、真鍮ディテール)
・Dining Chair(オーク/チーク、座面張り/籐、精密接合)
・Side Chair(軽量構造、背の快適角度設計)
・Lounge Chair(ファームクッション×柔らかな背角のバランス)
・Easy Chair with Teak Arm(手触り重視の無垢加工)
・Coffee Table(幕板レス・端部面取りのミニマル)
・Side Table(トレーエッジ/薄天板タイプ)
・Low Cabinet(ブックマッチ扉、精密な框組み)
・Highboard(可動棚・隠し丁番・無垢縁取り)
・Chest of Drawers(薄縁×精密クリアランスの引出し)
・Bookcase(背板浮かせ構造、視覚軽量化)
・Secretary Desk(フラップ扉、文具仕切り)
・Wall Unit(モジュール棚・キャビネット組合せ)
・Dining Table(楕円/長方、脚部の嵌合で膝入れ確保)
・Extension Table(隠し伸長機構、天板目合わせ精度)
・Bench(フラットクッション×フレーム見付の対比)
・Stool(張り座/木座、持ち運びやすい軽量設計)
・“Edith” Lounge Chair for Bovenkamp(オーク×彫刻的チークアーム)
・“Karen” High-back Chair for Bovenkamp(ハイバック×羽根形ヘッド)
・Cabinet for Næstved Møbelfabrik(ローズウッド突板×無垢縁取り)
・Armchair for Ludvig Pontoppidan(ギルド展向け限定仕様)