Jens Hjorth | イェンス・ヒョルト


Story

イェンス・ヒョルトは、20世紀中頃のデンマーク・モダンを静かに支えた実務派のデザイナーです。個人史の資料は限られていますが、残された椅子やセティの造形・構造から、現場に根差した合理性と節度ある美意識を読み取ることができます。量産の要請と職人的品質の橋渡しを担い、メーカーの力を引き出す役割を果たしました。

ヒョルトの設計では、骨格となるビーチ無垢材と、触感・表情を担うチークとの素材対比が核になります。露出させた接合や緻密に制御された背板の曲率は、構造そのものを意匠へ転化するアプローチを示し、視覚的な軽さと長期使用に耐える強度の両立を実現しています。

1953年前後に登場したモデル306・308は、彼の姿勢を象徴する作品です。背板とアームの連続性、脚部と背の取り合い、座面厚とフレーム断面のバランスなど、量産工程を踏まえた設計判断が各部に見られます。過剰な装飾を避け、座り心地と佇まいを両立させる点に評価が集まりました。

ダイニングからラウンジ、二人掛けセティへと語彙を拡張しても、設計原理は一貫しています。スケールが変わっても、支持角、荷重経路、面剛性の考え方を踏まえ、用途に応じた微細な最適化を積み重ねています。住空間だけでなく公共空間にも受容され、堅牢で扱いやすい家具として普及しました。

近年は展覧会や研究を通じて再評価が進み、工房系デザイナーの重要な一例として位置づけられています。華やかな作家性ではなく、製品の完成度で語られるタイプのデザイナーであり、ヒョルトの静かな合理性は今日の目にも新鮮に映ります。


About

Year: 1950–1960s
Place: Randers(ランダース)
Manufacturer: Randers Stolefabrik(ランダース・ストールファブリック)Randers Møbelfabrik(ランダース・モーベルファブリック)


History

1950:ランダースの生産現場と連動するかたちで設計業務を開始する
1951:Randers Møbelfabrik が株式会社化し、椅子中心から総合家具へ事業を拡張する
1952:社内資料と販促物で初期モデルが流通し、量産検証が進む
1953:Model 306 を設計し、背板とアームの連続造形を確立する
1953:Model 308 を発表し、露出ジョイントを意匠化する設計手法を示す
1953:フレデリシア「Købestævnet」にイージーチェア系統を出品し、業界認知を得る
1953:業界誌で取り上げられ、曲率設計と接合ディテールが話題となる
1954:工場カタログに Model 308 が掲載され、主力品番としてシリーズ化される
1955:Model 307 を派生投入し、背板形状と座仕様のバリエーションを整える
1956:ラウンジチェアを展開し、低背・高背の使い分けを検証する
1957:同語彙のセティ(二人掛け)を設計し、空間トータル提案を強化する
1958:設備更新により曲げ加工と仕上げの歩留まりが改善する
1959:輸出案件の増加に対応し、部材共通化と治具更新でコストを安定化する
1960:ビーチ骨格+チーク表情材の素材対比が評価の指標として定着する
1961:公共施設向け仕様で接合部断面・金具併用の最適化を図る
1962:工場規模拡大に伴い型板・組立治具を再設計し再現性を高める
1963:専門誌で Model 308 の造形と人間工学的特性が再評価される
1964:同社の他デザイナー群とともに新カタログ編成に参加し品番体系が整理される
1965:教育・オフィス分野での採用が進み、メンテナンス性の要件が明確化する
1966:英独市場向けに座面張り仕様や木口処理の地域要望へ細部調整を行う
1967:生産ライン再編に合わせ、部材の標準化と動線改善を実施する
1968:代表作が北欧家具特集で再掲され、量産と造形の両立事例として紹介される
1969:仕上げ塗料の更新で耐久・環境のバランスを改善する
1970:事業転換の影響で当該シリーズが段階的に生産終了となる
2016:ヒョルト設計椅子が国際巡回展に選定され、再評価の契機となる
2018:国内美術館での展示が進み、資料整理と意匠分析が深化する
2021:巡回終了後も研究発表が継続し、工房系デザイナーの再位置づけが定着する


Furniture

・Model 306 Side Chair | モデル306 サイドチェア
・Model 306 Armchair | モデル306 アームチェア
・Model 306 Upholstered Side Chair | モデル306 張り座 サイドチェア
・Model 307 Side Chair | モデル307 サイドチェア
・Model 307 Armchair | モデル307 アームチェア
・Model 307 Upholstered Side Chair | モデル307 張り座 サイドチェア
・Model 308 Dining Chair | モデル308 ダイニングチェア
・Model 308 Armchair | モデル308 アームチェア
・Model 308 High Back Dining Chair | モデル308 ハイバック ダイニングチェア
・Model 308 Upholstered Dining Chair | モデル308 張り座 ダイニングチェア
・Easy Chair 1953 | イージーチェア 1953
・Lounge Chair Low Back | ラウンジチェア ローバック
・Lounge Chair High Back | ラウンジチェア ハイバック
・Settee Two Seat | セティ 2人掛け
・Settee Three Seat | セティ 3人掛け
・Ottoman | オットマン
・Footstool | フットスツール
・Armchair with Exposed Joints | 露出ジョイント アームチェア
・Dining Chair Beech Teak Contrast | ダイニングチェア ビーチ チーク コントラスト
・Side Chair Sculpted Back | サイドチェア 彫刻的バックレスト

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