About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1950
Material: Beech, fabric or leather upholstery
Size: 幅56 × 奥行き52 × 高さ77 cm
Story
CH50チェアは、1950年代から1960年代にかけて製造された、ハンス・J・ウェグナーによる比較的知られていないモデルです。広く普及したウィッシュボーンチェア(CH24)やザ・チェア(JH501)と比べると、知名度こそ高くありませんが、その設計にはウェグナーの哲学「オーガニック・ファンクショナリズム」が色濃く反映されています。
この椅子の最大の特徴は、布張りまたは革張りの座面と背もたれにあります。ペーパーコードを多用したCH22やCH23とは異なり、張り地を選択できる点で異彩を放っています。フレームにはブナ材が用いられ、自然なラッカー仕上げや着色によって仕上げられました。直線的で力強い構造と、緩やかにカーブしたアームレストの調和が、彫刻的な美しさを椅子全体に与えています。
CH50は、ウェグナーが歴史的な椅子の要素を抽出し、それを構造と機能に昇華させる過程の一例でもあります。ウィンザーチェアや中国の伝統的な椅子から着想を得た作品群と同様に、CH50も「古い様式を削ぎ落とし、純粋な構造を浮かび上がらせる」という彼の手法を体現しています。
製造元であるカール・ハンセン&サンとの協力関係の中で生まれた本モデルは、短命ながらも独自の存在感を示しました。その希少性は今日、ヴィンテージ市場においてコレクターにとって特別な価値を与えています。価格面では他の代表作に比べて手頃ですが、それはむしろ本物のウェグナー作品を手にする好機とも言えるでしょう。
CH50は、世界的に有名な作品群の陰に隠れながらも、職人技と人間工学的快適性を見事に融合させた椅子です。「椅子は誰かが座って初めて完成する」というウェグナーの言葉を、まさにそのまま形にした存在だと言えます。

