Egyptian Chair | エジプシャンチェア


About

Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォッダー)
Year: 1949
Material: Teak, Rosewood, Leather, Fabric
Size: W55 × D56 × H89 / SH45 cm


Story

エジプシャンチェアは、フィン・ユールが1949年に発表した代表作のひとつであり、デンマークモダンデザインにおける彼の芸術的成熟を象徴しています。コペンハーゲン家具職人ギルド展でチーフテンチェアと並んで発表された際、その彫刻的なフォルムと独自の存在感は大きな反響を呼び、ユールが国際的な評価を得る決定的な契機となりました。

インスピレーションの源は、ルーヴル美術館で目にした古代エジプトの椅子にありました。ユールは、その直線と曲線が生み出す威厳ある構造を深く研究し、自ら「構造を盗んだ」と語るほど強い影響を受けています。しかし彼が行ったのは単なる模倣ではなく、古代の造形美を現代の木工技術と結びつけ、軽やかでダイナミックな空間表現へと昇華させることでした。

デザインの核心は、座面と背もたれをフレームから浮かせたように見せる構成にあります。この「浮遊感」は、1945年のNo.45チェアで芽生え、エジプシャンチェアでより明確な形に結実しました。ユールが提唱した「空間の中の空間」という理念は、この分離された要素によって具現化され、椅子自体が空間に呼吸を与える存在となっています。

制作を担ったのは、名工ニールス・ヴォッダーです。ユールは建築を学んだものの家具づくりの専門教育は受けておらず、複雑で彫刻的なアイデアを現実にするためにはヴォッダーの高度な木工技術が不可欠でした。細部に至るまで繊細に削り出されたフレームは、両者の信頼関係と緊密な協働の結晶であり、デザイナーと職人が互いの強みを補完しあうことで初めて成立した造形です。

オリジナルはチークやローズウッド材を用い、張地には革やファブリックが採用されました。ローズウッド材のものは特に希少で、今日でも美術館やコレクターから高く評価されています。21世紀に入ってからは「House of Finn Juhl」が正規復刻を開始し、日本ではKITANI、さらに近年はAUDOも製作に加わり、国際的に再び注目を集めています。

この椅子は、古代の遺産とモダニズムの精神を橋渡しし、芸術と機能の融合を体現する記念碑的作品です。その存在は単なる椅子を超え、空間そのものを変容させる力を持ち、今日もなおデンマークデザインの真髄として輝き続けています。

 

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