NV53 Chair | NV53チェア


About

Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォッダー)
Year: 1953
Material: Teak, Rosewood, Walnut, Oak, Leather, Fabric
Size: W72–74 × D75–77 × H73–77 cm / SH36–37 cm


Story

NV53チェアは1953年のコペンハーゲン・キャビネットメーカーズギルド展において発表されました。この展示会は、若手デザイナーと熟練の家具職人が共同で革新的な家具を発表する舞台であり、フィン・ユールにとってNV53は、自らの哲学を世に示す象徴的な一脚となりました。

ユールは建築を学んだ経歴を持ち、家具職人としての伝統教育を受けていなかったため、規範に縛られない自由な発想を育みました。家具を「実用のための構造物」としてではなく「重力から解放された彫刻」として捉え、視覚的な軽やかさと感覚的な快適性を追求しました。NV53においても、フレームと座面を切り離し、まるで宙に浮いているかのように見せる構造が採用され、その革新性は当時のデザイン界に衝撃を与えました。

この思想を現実のものとしたのは、長年の協働者ニールス・ヴォッダーの熟練した木工技術でした。ユールのデザインはしばしば「他の職人には不可能」と言われるほど複雑でしたが、ヴォッダーは高度な加工技術と緻密な構造設計によってそれを実現しました。後脚からアームにかけて途切れなく流れる曲線、精巧な接合部、滑らかに削り出された木肌は、芸術と職人技の理想的な結びつきを物語っています。

NV53チェアの特徴は、ブルホーン(雄牛の角)を思わせる力強いアームと、体を包み込むようなバケット型の座面にあります。視覚的な軽やかさと身体的な安心感を同時に実現し、素材にはチークやローズウッドなどの銘木が用いられました。これらの木材は堅牢さと美しさを兼ね備え、経年変化によって深い味わいを生み出します。

その後、NV53はデンマーク国外でも復刻の試みが行われました。特に注目すべきは、日本・飛騨高山の家具メーカーKITANI(キタニ)による復刻です。デンマーク本国からの信頼を受けたKITANIは、伝統的な木工技術を活かしてNV53を丁寧に再現し、フィン・ユール作品の復活に重要な役割を果たしました。日本の職人技による復刻は、デンマークと日本の木工文化の融合として高い評価を受けています。

しかしその後、デンマークのハウス・オブ・フィン・ユール(Onecollection)がフィン・ユール作品の独占的な製造権を取得し、NV53の復刻を引き継ぎました。彼らはオークやウォールナットを用い、持続可能性に配慮しながらオリジナルの精神を忠実に再現し、世界的な市場に再びNV53を送り出しています。KITANIによる復刻が道を拓き、その後ハウス・オブ・フィン・ユールが再生産を行うことで、NV53は本国の正統な製品として位置づけられ直し、今日の国際的評価につながっています。

このようにNV53チェアは、誕生から70年以上を経てもなお、芸術性と快適性を兼ね備えた不朽の傑作として評価され続けています。その「浮遊感」は現代の空間にも自然に溶け込み、デンマークと日本の双方の職人技を経て復刻されることで、ユールの思想は新しい世代に受け継がれているのです。

 

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