About
Designer: Inger Klingenberg(インガー・クリンゲンベルグ)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1960s
Material: Teak, Walnut, Leather, Fabric
Size: W48 × D52 × H78 × SH45 cm
Story
FD193 Dining Chairは、デンマークの女性デザイナーであるインガー・クリンゲンベルグによってデザインされ、フランス&サンの工業化された製造体制によって実現した作品です。1950年代から60年代にかけて彼女は多方面で活躍し、家具だけでなくテキスタイルやジュエリーの分野にも携わりました。その中でもFD193は、彼女の芸術的感性と工業的精度が融合した代表作のひとつです。
この椅子は、背もたれと座面が流れるように湾曲した彫刻的フォルムを特徴としています。座面はフレームから独立して浮遊するように構成され、軽快な印象とともに快適な座り心地をもたらします。人間工学を意識した曲線は、視覚的な美しさと機能性を両立させています。
素材にはチーク材やウォールナットが用いられ、座面と背もたれにはレザーやファブリックが張られました。これにより、堅牢なフレーム構造と柔らかな座り心地の対比が際立ちます。内部には薄板成形技術が応用されていたと考えられ、複雑な曲線を安定した品質で再現することを可能にしました。
また、FD193にはアメリカの工業デザイン思想の影響も見られます。クリンゲンベルグの夫であるロス・リッテルはイームズ派に属しており、彼のミニマリズムと機能性を重視した哲学が作品に影響を与えました。その結果、この椅子はデンマークの木工伝統と国際的なモダンデザインの潮流が交わる象徴的な存在となりました。
現在、FD193 Dining Chairはデンマーク・モダンの成熟を示す作品として高く評価され続けています。工業的な精度と芸術的な造形美が結実したこの椅子は、女性デザイナーの重要な貢献を証明する稀有な作品として位置づけられています。