About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)
Year: 1958
Material: Teak, Leather
Size: W × D × H × SH cm
Story
JH506チェアは、1958年にハンス・J・ウェグナーによってデザインされ、ヨハネス・ハンセン工房によって製造されたサイドチェアです。本モデルは、同時に発表されたアームチェアJH508と対をなす存在であり、デンマーク・モダンデザインの黄金期における純化されたダイニングチェアの典型例といえます。
ウェグナーは「連続的な純化と簡素化」を自身のデザイン哲学とし、構造を隠すことなく視覚的要素として提示しました。JH506の背もたれからアームレストにかけての上部レールは、無垢のチーク材を削り出して形成されており、滑らかな曲線が人間工学的に自然な着座姿勢を導きます。この彫刻的な要素は視覚的軽快さと構造的強度を兼ね備えたウェグナーらしい表現です。
製造には高度な接合技術が用いられました。特に背と脚部の接合には指接合が採用され、木目の連続性を維持しながら高い耐久性を確保しています。さらに脚部や座枠には伝統的なほぞ継ぎが多用され、椅子全体の安定性を支えています。これらの複雑な接合は、ハンセン工房の職人技術によって初めて実現可能となりました。
座面は黒革張りが一般的であり、当時主流であった籐(ラタン)座からの移行を象徴しています。湿度変化に伴う耐久性の課題を解決し、高級感を備える素材選択は、国際市場を意識した戦略的対応でもありました。革張りの仕上げには高度な布張り技術が要求され、木部と革が一体となった完成度の高い仕上がりを実現しています。
1958年のコペンハーゲン・キャビネットメーカーズ・ギルド展において発表されたJH506は、工業化が進む時代においても職人技の価値を提示する文化的宣言でした。今日に至るまで、ウェグナーとハンセン工房の協業が生み出したこのモデルは、デンマーク家具の歴史において特別な位置を占めています。