JH513 Armchair | アームチェア


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)
Year: 1960
Material: Oak, Teak, Walnut, Mahogany, Leather, Fabric
Size: W66-68 × D58-60 × H89-92 × SH42-45 cm


Story

JH513アームチェアは、ハンス・J・ウェグナーが1960年にデザインし、ヨハネス・ハンセン工房によって製造された作品です。会議用チェアとして発表されましたが、ラウンジチェアやダイニングチェアとしても使える高い汎用性を備えています。発表当時、デンマーク家具職人組合展にてボート型テーブル(JH713)を囲む形で展示され、建築的な安定性と有機的な美しさを融合したデザインとして注目を集めました。

ウェグナーの設計哲学である「オーガニックな機能性」は、このモデルに明確に表れています。広めの座面と高い背もたれは、長時間の着座でも快適性を維持し、アームレストは角のない曲線を描いて手に自然に馴染むよう工夫されています。視覚的な軽さを持たせるため、張り地が施された座面と背もたれはフレームから浮遊しているように見える構造を採用しています。

構造的には、後脚とアームレストの接合部に高度な木工技術が用いられています。無垢材を削り出し、木目を連続させることで接合部を意識させず、滑らかなラインを実現しています。これは職人の緻密な技術なしには成立しない設計であり、ヨハネス・ハンセン工房のクラフトマンシップを象徴する部分です。

素材にはオークやチークが多く用いられ、稀少なウォルナットやマホガニーの個体も存在します。張り地にはアニリンレザーが選ばれることが多く、ウールやベルベットといったファブリック仕様も確認されています。無垢材フレームと高級皮革の組み合わせは、重厚感と上質さを強調しています。

JH513は、同じウェグナー作品であるJH512ラウンジチェアと比較されることもあります。JH512が籐(ラタン)を使った軽快な構造であったのに対し、JH513は張り地による重厚な存在感と快適性を追求しました。この対比は、用途に応じて素材と構造を使い分けるウェグナーの緻密な設計戦略を示しています。

現在、ヨハネス・ハンセン工房はすでに存在せず、JH513はヴィンテージ市場でのみ入手可能です。大量生産では再現困難な接合技術に依存していたため、ライセンス継承されず現行生産は行われていません。そのため、JH513はデンマーク・モダンの黄金期における職人芸術の結晶として、歴史的かつ美学的価値を持ち続けています。

 

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