About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)
Year: 1951
Material: Oak, Rattan
Size: W72 × D52 × H73 × SH39 cm
Story
JH516ラウンジチェアは、1951年にハンス・J・ウェグナーによって設計され、ヨハネス・ハンセン工房で製造された作品です。幅72cmという広がりを持ちながら、座面高を約39cmに抑えた設計は、使用者に深いリラックス感をもたらすことを意図しています。この低い重心は、フォーマルすぎない落ち着きを備えたラウンジチェアとしての役割を鮮明に示しています。
デザインの最大の特徴は、滑らかに削り出された有機的な木部のラインと、手編みの籐(ラタン)が織りなす透明感にあります。特にアームから後脚にかけての流れるようなラインは、彫刻的な柔らかさを体現しており、工業製品にはない人間工学的な配慮を感じさせます。籐を使用した座面と背もたれは、通気性と軽やかさを提供すると同時に、堅牢なオークフレームの存在感を柔らげ、空間に圧迫感を与えません。
JH516は、接合部にほぞ継ぎなどの伝統的な木工技術を駆使して製作されており、視覚的な軽さと構造的な強さを両立させています。籐の座面は工業的な既製ウェビングではなく、六方編みの手編みで仕上げられており、この点においても最高級のクラフトマンシップが注ぎ込まれています。
この作品は、ウェグナーとヨハネス・ハンセンの協働が最も充実していた時代に誕生しました。彼らは工業化が進む時代にあっても、あえて時間と手間を要する無垢材の彫刻と伝統的な手仕事を選び取りました。その姿勢は、同時代に成形合板を駆使して工業生産の効率化を進めたイームズ夫妻のアプローチとは対照的であり、「クラフト・モダニズム」の典型として評価されています。
JH516は製造数が極めて限られていたため、現存するオリジナル作品は希少性が高く、今日ではコレクターズアイテムとして特別な価値を持ちます。その歴史的背景と職人技の粋を示す佇まいは、デンマーク・モダンの黄金期を象徴する「控えめな傑作」として位置づけられています。