About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)
Year: 1947
Material: Oak, Cane, Leather
Size: W63 × D52 × H76 × SH44 cm
Story
JH514チェアは、ハンス・J・ウェグナーが1947年に発表した初期の代表作であり、デンマーク・モダンの形成期におけるクラフツマンシップの哲学を体現する作品です。本作は、デザイナーとマスターキャビネットメーカーであるヨハネス・ハンセンとの緊密な協業によって生まれました。1940年から始まった二人のパートナーシップは、デンマーク家具を世界的に知らしめる基盤を築き、その成果はこの椅子にも明確に表れています。
構造は、堅牢なオーク材による軽快で洗練されたフレームを特徴とし、伝統的なホゾ継ぎや可視化されたダボ継ぎが使用されています。これらの接合部は隠されることなく装飾的な要素として強調され、構造の誠実さと職人技の高度さを示すものとなっています。フラットに仕上げられたアームレストは、先端に向かって細くなる繊細なテーパーが施され、人間工学に基づいた快適性と視覚的な軽快さを両立しています。
座面と背もたれには、籐(ラタン)の手編みや皮革の張り込みなど、複数のバリエーションが存在しました。手作業による編み込みは高い熟練度を要し、堅牢なフレームとの対比によって快適性と通気性を確保しています。堅固な木材と柔軟な素材の組み合わせは、ウェグナーが追求した「形態・機能・快適性の調和」を具体的に実現したものです。
JH514は、1947年のデンマーク家具職人組合展で初めて発表されました。この展示会は、量産ではなくクラフトの限界を追求する舞台として機能しており、JH514の精緻な接合や手編みの座面は、量産家具では再現できない職人芸の極致を示すものでした。この椅子は、後に「ザ・チェア」や「ウィッシュボーンチェア」へとつながるウェグナーの成熟したデザイン哲学の基盤を形づくっています。
ヨハネス・ハンセン工房の生産終了後、1990年にはPPモブラーがこのコレクションの製造を継承し、今日に至るまでJHシリーズの精神とクラフト基準を守り続けています。JH514は、その簡潔な形態の中に、木工技術の粋とデザイン哲学、そしてデンマーク・モダンの普遍的価値を凝縮した作品として評価されています。