FH4602 Heart Table | ハートテーブル


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1952
Material: Teak veneer, Oak / Beech
Size: Ø120 × H70 cm


Story

FH4602「ハートテーブル」は、ハンス・J・ウェグナーが1952年にフリッツ・ハンセン社のためにデザインした円形ダイニングテーブルです。対応するFH4103「ハートチェア」とともに構成されるこのセットは、ウェグナーの設計思想における「機能と形の調和」を極限まで追求した代表的な作品です。

ウェグナーとフリッツ・ハンセンの協働は、無垢材の職人であるデザイナーと、成形合板技術の先駆者であるメーカーとの対話の成果として位置づけられます。特にハートテーブルは、三本脚という独自の構造によって、機能的安定性と視覚的軽やかさを両立させています。この設計は単なる造形上の選択ではなく、6脚の椅子を円形の天板に効率的に収めるための合理的な解答であり、ウェグナーの「有機的機能主義」を象徴するものです。

素材の組み合わせにも深い意図が込められています。天板には美しい木目を持つチーク突板を使用し、脚部にはオークまたはビーチの無垢材を用いることで、強度と質感のバランスを取っています。木材の選択には、構造的安定性と審美的対比の双方を重視するウェグナーらしい合理性が見て取れます。また、ハートチェアの座面に採用された成形合板は、フリッツ・ハンセンの得意とする工業技術の象徴であり、伝統と革新が交差する象徴的な素材選択でした。

ハートテーブルとハートチェアは、当初から一体的な「ダイニングスイート」として構想されており、収納時には視覚的にも機能的にも一つの統合体を形成します。これは、ウェグナーの作品に通底する「システムとしての家具」という理念の明確な表現であり、後の北欧デザインにも影響を与えました。

製造当時、フリッツ・ハンセン社ではアルネ・ヤコブセンによる「アリンコチェア(Model 3100)」が登場し、成形合板技術を用いた大量生産が急速に進展していました。その中でハートセットは、無垢材の職人技と工業技術を融合させた異色の存在として、短命ながらも重要な役割を果たしました。やがてこのシリーズは1960年代に生産を終えますが、その後もデンマーク家具史における実験的成果として評価され続けています。

三本脚の構造、素材の対話、そしてメーカーとの関係性に宿る緊張感。FH4602ハートテーブルは、ウェグナーが設計思想の中核に据えた「機能の中に宿る美」を体現した、静謐で知的なデザインの結晶です。

 

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