About
Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード=ニールセン)
Manufacturer: Søborg Møbler(ソボー・モブラー)
Year: 1956
Material: Teak / Rosewood / Oak / Walnut / Paper Cord
Size: W59 × D54 × H78 × SH44 cm
Story
Model 317 Armchairは、1956年にデンマークのデザインデュオ、ピーター・ヴィットとオルラ・モルガード=ニールセンによって設計され、ソボー・モブラーが製造を担当したアームチェアです。この作品は、アームレスのModel 316と対をなす「Drawn Chair」シリーズの一脚として位置づけられ、デンマーク・モダンの合理性と有機的な美学を融合させた代表作として知られています。
デザインの根底には、構造を隠さず誠実に表現するという機能主義の理念があります。背もたれの三日月形のカーブや丸脚のシンメトリー構成は、軽やかな印象を与えながらも高い安定性を備えています。素材にはチークやローズウッドが用いられ、座面にはペーパーコードまたは籐(ラタン)が張られています。伝統的な木工技術と工業的な合理性が見事に調和しており、当時の家具製作における構造的洗練の到達点を示しています。
構造上の核心には、背から脚部にかけての曲線を実現するために採用された薄板成形技術があります。この「フォームプレス加工」は、従来の蒸気曲げ木よりも高い精度と耐久性を実現し、複雑な曲線構造を軽量に仕上げることを可能にしました。ソボー・モブラーがこの新技術を積極的に採用したことは、職人工房から近代的な製造体制への移行を象徴する出来事でもあります。
Hvidt & Mølgaardは、フリッツ・ハンセンでのPortexやAXチェアの設計で確立した構造合理化の経験を活かし、317型では分解構造を持たない一体型フレームにおいても、量産を意識した高精度な設計を実現しました。その結果、この椅子は職人技と工業技術の橋渡しとなり、デンマーク家具の国際的評価を決定づける要因の一つとなりました。
今日、317型は「Drawn Chair HM4」として復刻され、オークやウォルナットなどのFSC認証材を用いた持続可能な素材構成で生産が続けられています。そのデザインは70年近く経った現在でもまったく古びず、建築的精度と詩的な造形美を併せ持つ普遍的なデンマーク家具の象徴といえます。