About
Designer: Christian Hvidt(クリスチャン・ヴィット)
Manufacturer: Søborg Møbelfabrik(ソボー・モブラー)
Year: 1960s
Material: Oak / Teak
Size: W90 × D47 × H160 cm(構成ユニットにより変動)
Story
SM76ウォールユニットは、デンマーク・モダンデザインの黄金時代が終焉を迎える1960年代後半に、クリスチャン・ヴィットがソボー・モブラーのために設計した自立型モジュール収納システムです。ヴィットは機能主義を基盤としながら、住環境の変化に応じて柔軟に対応できる家具の在り方を追求しました。この作品は、従来の壁掛け式システムに代わり、ユーザーが自由に構成・再配置できる革新的な自立型ユニットとして開発されました。
デザインの根底には、デンマーク・モダンが継承してきた「素材への誠実さ」と「合理的構造」の理念があります。各キャビネットはソリッドオークまたはチーク材で製作され、調整可能な木製ベースによって床面のわずかな不均一にも対応します。ユニット同士は固定されず、個々の要素が独立して積み上げられる構造のため、空間に合わせて自在に組み替えることが可能です。これにより、都市化と住宅の小型化が進む時代において、高い実用性と柔軟性を兼ね備えた収納家具として評価されました。
ヴィットの設計思想は、デンマーク・モダンの初期における静的な家具造形から、ユーザー主体で空間を構築する「システムデザイン」への転換を示しています。モジュールは幅90cmの標準化された寸法で設計され、扉付きキャビネット、開放棚、引き出しユニットなどを自由に組み合わせることができます。その構成原理は、後の北欧収納システムにおける設計的基盤の一つとなりました。
また、ソボー・モブラーの高精度な木工技術が本作品の品質を支えています。キャビネットの接合部には、指物師の伝統に基づく精密な木組みが採用され、金属要素は必要最小限に抑えられています。チーク材モデルには真鍮のハンドルが使われ、温かみのある木質と金属の冷たい光沢が調和しています。これらの要素が相まって、機能的でありながら彫刻的な存在感を放つデザインが完成しています。
SM76ウォールユニットは、ソボー・モブラーが持つ伝統的クラフトマンシップと、時代が求めたモジュール性を融合させた象徴的な作品です。その設計は、1950年代のピーター・ヴィット&モルガード=ニールセンが確立した構造合理主義を継承しつつ、新たな生活様式に適応する柔軟な家具思想を提示しています。今日においてもこの作品は、デンマーク・モダンの終盤における「構造と自由の調和」を体現した傑作として評価されています。