About
Designer: Jørgen Henrik Møller(ヨルゲン・ヘンリック・モラー)、Jens Ole Møller(イェンス・オーレ・モラー)
Manufacturer: J.L. Møllers Møbelfabrik(J.L.モラー)
Year: 1986
Material: Oak / Teak / Walnut, Paper cord seat
Size: W 50 × D 51 × H 80 × SH 45 cm
Story
Model 333は、創業者Niels Otto Møllerの逝去(1982年)後に、次世代が主体となって1986年に発表したダイニングチェアです。J.L.モラーが受け継いできた有機的ミニマリズムの美学をそのままに、世代交代後も品質と設計思想が揺るがず継続していることを証明する一脚として位置づけられます。背から後脚へと連続するラインは過度な装飾を避け、身体の曲線に沿う緩やかなカーブで快適性を確保します。視覚的な軽やかさと、日常使用に耐える実用性の両立が目標とされました。
構造面では、金属のネジや釘に依存せず、フレーム全体をホゾ組みでまとめるキャビネットメーカー的手法が貫かれています。特に脚部と貫の取り合いには、前後・左右のレールが脚ポスト内部で干渉し合うように噛み合う複合ホゾを採用し、横揺れ(ラッキング)に対する抵抗力を高めています。接着剤の強度に頼るのではなく、木組みそのものの幾何学で強度を確保する考え方は、J.L.モラーの椅子が長期間の使用に耐える理由を端的に示します。
素材選定は厳格で、フレームには選別したオーク、チーク、ウォールナットの無垢材を用います。最終仕上げは機械研磨に委ねず、手作業の磨きで木肌の質感とエッジの面取りを整え、継ぎ目の視覚的連続性を高めます。座面は手織りのペーパーコードが標準で、一本の長尺コードを連続して張ることで継ぎ目由来の弱点を排し、適度な弾性と通気性による座り心地を実現します。使い込むほどに繊維が落ち着き、表情に深みが生まれる点も魅力です。
生産体制は「ライン生産に依らない方式」を基本とし、熟練工が工程全体の責任を負う仕組みを維持します。一方で、治具や切削精度の管理には現代的な機械も適切に取り入れ、複雑なホゾ部材の寸法精度を安定化させています。伝統的な木工技術を核に据えつつ、精度管理には合理性を併用する姿勢が、均質で高水準の仕上がりを支えています。
こうした設計・構造・生産の三位一体により、Model 333は「抑制された優雅さ」と「工学的に裏づけられた耐久性」を同時に備えます。黄金期のアイコンとは異なる時代に登場しながらも、J.L.モラーの本質を明確に体現し、日本を含む厳しい市場で長く評価され続ける理由がここにあります。