OS63 Highboard Cabinet | ハイボードキャビネット


About

Designer: Arne Vodder(アルネ・ヴォッダー)
Manufacturer: Sibast Furniture(シバストファニチャー)
Year: 1958
Material: Teak / Rosewood
Size: W182–183 × D49–50 × H108–117 cm


Story

アルネ・ヴォッダーによってデザインされ、シバストファニチャーが製造したModel OS63ハイボードキャビネットは、1958年に発表されたミッドセンチュリー・モダンの代表的作品です。ヴォッダーが手がけた収納家具の中でも特に完成度が高く、左右非対称の構成と蛇腹扉のメカニズムが生み出す造形的なバランスが際立っています。

ヴォッダーは、フィン・ユールに師事して建築的な比例感と職人的なディテール感覚を身につけました。OS63ではその訓練の成果が見事に発揮され、引き出し部分と蛇腹扉部分が非対称に配置されながらも、全体として非常に整ったプロポーションを保っています。このデザインは、空間的効率と美的静寂を両立するものであり、スカンジナビア・モダニズムの哲学を体現しています。

蛇腹扉(タンブールドア)は、このモデルを象徴する構造的特徴です。細かく成形された木製スラットが連続し、滑らかに本体内部へと収納される構造を持ちます。開閉時に前方の空間を必要としないため、省スペース性と機能美が両立されており、狭い空間にも自然に溶け込む設計です。

素材にはチークとローズウッドが用いられました。ローズウッド製の初期モデルは深い色調と重厚な木目を持ち、希少性の高いコレクターズピースとして知られています。一方、1960年代以降はチーク材が主流となり、温かみのある色合いと耐久性が評価されました。どちらの素材も、経年変化によってさらに味わいを増すことが特徴です。

OS63はまた、ハンドルレスデザインを採用し、外観に突起を設けないことで木目の連続性を保っています。この静謐な面構成は、ヴォッダーが重視した「装飾を排した美」の精神を象徴しています。製造を担ったシバストファニチャーは、1950〜60年代にかけて120人以上の熟練職人を抱える工房として知られ、その精緻な加工技術がこの作品の完成度を支えました。

このハイボードは、デンマーク・モダニズムが国際的な評価を確立した時代の象徴であり、ヴォッダーとシバストの協働による最高峰の成果の一つといえます。その構造的合理性と優雅な造形は、現代においても機能的な美の理想を示し続けています。

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