About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォッダー) / Bovirke(ボヴィルケ)
Year: 1949
Material: Solid Walnut, Brass
Size: W110 × D69.3(D46.5)× H50 cm
Story
1949年にデンマークの建築家フィン・ユールによってデザインされた「FJ 4920 ドロップリーフ コーヒーテーブル」は、家具を彫刻的な造形として再定義した革新的な作品です。天板の両端が蝶の羽のように開閉する構造から「バタフライ・テーブル」とも呼ばれ、その優雅な動作は機能と詩的な美しさを同時に体現しています。
当初は、ユールの最も信頼するキャビネットメーカーであったニールス・ヴォッダーによって、キャビネットメーカーズ・ギルド展のために制作されました。ヴォッダーは、複雑な折りたたみ機構を視覚的な軽さを損なわずに実現し、ウォルナットの質感と真鍮の象嵌を完璧に調和させています。この段階では、いわば「芸術作品」としての一品制作であり、手仕事の緻密さが最大限に発揮されました。
その後、このモデルはボヴィルケ社を通じて商品化され、より広い市場へと供給されるようになります。この移行は、フィン・ユールが職人との一対一の制作体制から、デザインの理念を社会に広げる段階へと踏み出した象徴でもありました。彼の作品は単なる機能的な家具ではなく、空間そのものを定義する建築的な存在として位置づけられています。
ドロップリーフ機構をローテーブルに採用した点も、ユールの発想の独自性を物語ります。展開時と収納時で奥行きが約20cm変化する構造は、限られた空間に柔軟性をもたらしながら、どの状態でも造形の均衡を崩さないよう設計されています。リーフの開閉による動きそのものが「デザインの一部」として表現され、ユールの建築的思考と工芸的精度が融合しています。
また、天板に施された円形の真鍮インレイは装飾を超えた意図を持ち、経年とともに緑青を纏うことで時間の流れを可視化します。これは、ユールが自然な経年変化(パティナ)を美として受け入れた証でもあります。彼の作品は、使い込むほどに素材が豊かさを増す「生きたデザイン」として、今なお国際的に高く評価されています。
FJ 4920は、デンマーク・モダニズムにおける機能主義の枠を超え、建築的造形と人間的感性の融合を示した象徴的作品です。今日では、ハウス・オブ・フィン・ユール(Onecollection)によって忠実に復刻され、当時の精神を継承しながら現代の空間にも静かな存在感を放ち続けています。