About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Bovirke(ボヴィルケ)
Year: 1955
Material: Teak, Oak, Walnut, Oregon Pine, Steel
Size: W 176.5 × D 46.7 × H 89.5 cm
Story
1955年に発表されたこのサイドボードは、フィン・ユールによる家具デザインの中でも特に象徴的な存在です。ボヴィルケ社によって製造された本作は、木製キャビネットを繊細なスチールフレームの上に浮かせるという革新的な構造を採用し、家具を「空間における彫刻」として捉えたユールの思想を体現しています。
本体の木製コーパスと、華奢なスチール脚部との対比は、機能性と芸術性を兼ね備えた北欧デザインの本質を示しています。脚先には木製の“トゥ(toe)”が設けられ、冷たい金属と温かみある木材との素材的調和が生み出されています。この構造的分離の美学は、ユールが初期に確立した「浮遊する構造(floating structure)」という概念に基づくものです。
最大の特徴であるカラートレイは、ゲーテの色彩論に影響を受けたもので、暖色系と寒色系の2レンジが存在します。赤やオレンジのトレイは活動性と温かさを、青系トレイは静けさと奥行きを象徴し、視覚的な調和をもたらします。トレイを引き出す動作そのものが「色彩を扱う行為」として設計され、収納家具でありながら、絵画的・彫刻的な体験を提供します。
この作品は、フィン・ユールがニールス・ヴォッダーとの手仕事中心の制作から、より工業的な生産体制へと移行する過渡期に生まれました。突板(ベニヤ)とスチールの組み合わせは、1950年代に進行していたデンマーク家具産業の工業化を象徴しています。ボヴィルケは、その変革を支えた重要な工房であり、芸術性と量産性の両立という課題に応えました。
2012年には、<a href=”https://denmark-design.com/house-of-finn-juhl/”>House of Finn Juhl(ハウス・オブ・フィン・ユール)</a>によって復刻され、現代の製造技術と職人の手仕事によって再び命を吹き込まれました。FSC認証材や耐久性の高い基材を採用しつつも、オリジナルと同様の色彩構成やディテールを忠実に再現しており、フィン・ユールが追求した「感情のあるデザイン(Design with feeling)」が今も継承されています。
この作品は、1950年代デンマーク・モダンデザインの転換期を象徴する家具であり、芸術と工業の融合を成し遂げた稀有な例です。その彫刻的な軽やかさと色彩の調和は、今日においてもなお新鮮であり、デンマーク家具が世界的に評価される礎を築いた重要な作品の一つといえます。