ハンス・J・ウェグナーのピーターズ・テーブルとチェア――子どものために生まれた、友情とデンマーク・モダンの静かな革新


戦時下に生まれた、友情のかたち

第二次世界大戦下の1944年、物資不足という厳しい状況のなかで、ハンス・J・ウェグナーは一組の小さな家具を設計しました。それは市場や量産を意識したものではなく、きわめて個人的な動機から生まれたものでした。

友人であり、同時代を代表するデザイナーでもあったボーエ・モーエンセン。その生まれたばかりの息子への贈り物として考案されたのが、ピーターズ・テーブル(CH411)とチェア(CH410)です。困難な時代にあって、親しい友人の家族を思い、手を動かす。その行為そのものが、この家具の出発点でした。


モーエンセンとの友情が育んだ設計姿勢

ウェグナーとモーエンセンは、ともにデンマーク・モダンを形づくった重要な存在でありながら、互いを競う存在ではなく、価値観を共有する友人でした。実用性、誠実な構造、生活に根ざしたデザイン。その共通認識があったからこそ、ウェグナーはこの小さな家具に一切の妥協を許しませんでした。

ピーターズ・セットは、友情の証として作られたものであると同時に、モーエンセンが重視した「生活のための家具」という思想とも静かに呼応しています。個人的な贈り物でありながら、その設計はきわめて普遍的です。


子どものための家具という思想

ウェグナーは、子ども用家具であっても、大人用と同じ設計精度が求められると考えていました。ピーターズ・セットは、大人用家具の単なる縮小版ではありません。丸みを帯びた輪郭、鋭利な部分を排した構成、床にしっかりと接地する安定感は、子どもの身体感覚や動きを丁寧に観察した結果として導かれています。

安全性は前提条件であり、そのうえで造形としての美しさが静かに成立しています。ここには「子ども用だから簡素でよい」という考えは見られません。


工具を使わない「組み立て」という発明

ピーターズ・テーブルとチェアは、数点の無垢材パーツから構成され、釘やネジ、接着剤を用いずに組み立てることができます。この構造は、後年一般化するフラットパック家具を先取りするものですが、その発想は工業的合理性よりも、木工精度と構造理解に裏打ちされた職人的思考によるものでした。

組み立てる行為そのものが、立体的なパズルのように設計されている点も、この家具の大きな特徴です。


戦時下の制約が生んだ普遍性

戦争という制約は、ウェグナーにとって創造性を阻むものではありませんでした。限られた素材、簡潔な構成、再現性の高い設計。そうした条件のなかで生まれたピーターズ・セットは、結果として時代を超えて通用する普遍性を獲得します。

戦後、FDBによる生産を経て、現在も製造が続けられている事実は、この家具が一過性のプロダクトではないことを示しています。


ウェグナーの設計思想を読み解く手がかりとして

ピーターズ・テーブルとチェアは、ラウンドチェアやウィッシュボーンチェアとは異なる、控えめで静かな佇まいを持っています。しかしその内側には、素材への敬意、構造への誠実さ、人の使い方を起点にした設計という、ウェグナーの思想の核が凝縮されています。

そして同時に、モーエンセンとの友情という人間的な背景が、この家具に温度を与えています。本展では、この小さな家具を通して、ウェグナーがいかにして「機能」と「人との関係性」を結びつけていたのかを読み解いていきます。

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