About
Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: FDB Møbler(FDBモブラー)
Year: 1950s–1960s
Material: Oak or Teak, Brass
Size: W122 × D45 × H94 cm
Story
モデル234チェストは、ボーエ・モーエンセンがFDBモブラーにおいて確立した機能主義の思想を、収納家具という日常的な道具の中で結晶化させた代表作です。装飾を排し、構造と寸法、素材の選択によって美しさを導くという彼の姿勢が、全体の構成に明確に表れています。
モーエンセンは、王立芸術アカデミーでコーア・クリントに学び、人間の身体寸法と生活行為に基づく設計手法を徹底的に身につけました。モデル234の幅や高さ、奥行は、住宅空間の中で無理なく機能することを前提に導かれたものであり、壁面に沿わせても、空間を緩やかに区切る位置に置いても成立するプロポーションが与えられています。
本作は、1950年代後半に展開されたチャイナ・シリーズに属します。明代中国家具に見られる直線的で緊張感のある構造から着想を得たフレーム構成は、北欧機能主義の合理性と結びつき、静かで建築的な佇まいを生み出しています。脚部によって本体を持ち上げる構造は、視覚的な軽さを与えると同時に、床面の扱いやすさにも配慮された設計です。
2列4段の引き出し構成は、大容量でありながら秩序を失わない点が特徴です。浅い段と深い段を組み合わせることで、小物から衣類までを効率よく収めることができ、日常の動作に自然に寄り添います。引き出し内部には明るい色調の木材が用いられることが多く、収納物への配慮とともに、開閉時の清潔感が保たれています。
素材には、オークまたはチークが用いられ、外装には突き板、エッジや構造部には無垢材を組み合わせることで、耐久性と合理性が両立されています。前面に配された真鍮製のT字取っ手は、チャイナ・シリーズを象徴する意匠であり、最小限のアクセントとして全体の緊張感を整えています。真鍮は時間の経過とともに落ち着いた色調へと変化し、木部の経年変化と調和しながら、使い手の生活の時間を静かに刻んでいきます。
モデル234は、単体として完成度が高いだけでなく、同シリーズのキャビネットなどと並べることで、空間全体を秩序立てるシステム家具としても成立します。家具を個別の造形物としてではなく、生活環境を構成する要素として捉えたモーエンセンの視点が、ここに明確に表れています。
このチェストが現在も高く評価され続けている理由は、時代性や流行に依存しない点にあります。素材、構造、寸法という基本要素を誠実に積み重ねることで、長く使われることを前提とした家具として完成している点に、ボーエ・モーエンセンの思想の核心があります。モデル234は、機能主義が日常の中でどのように美へと昇華され得るのかを、静かに示し続けている存在です。