私が好きな椅子 vol.4 / NV45 イージーチェア


Finn Juhl(フィン・ユール)のイージーチェア NV45には、他の椅子にはない特別な魅力を感じます。滑らかに伸びるアームから後脚へと繋がるラインには、思わず見入ってしまうような美しさがあります。NV45は「世界一美しい肘掛けを持つ椅子」と言われますが、実際に見るとその表現にも納得できます。

ただ、この椅子の魅力は単なる造形美だけではありません。

NV45を見ていると、フィン・ユールが既存の椅子の考え方から離れ、新しい造形を探っていた時代の試行錯誤が伝わってきます。

当時のデンマーク家具は、機能主義や合理性が強く求められていた時代でした。椅子は構造を素直に見せ、いかに合理的に作るかが重視されていました。しかしフィン・ユールは、そこへ抽象芸術や彫刻的な感覚を持ち込みます。特にヴィルヘルム・ルンドストロームやジャン・アルプのような抽象芸術家からの影響は大きかったのではないかと思います。

NV45には、一般的な椅子とは少し違う空気があります。座面や背はフレームから浮いているように見え、構造そのものを消そうとしているようにも感じます。普通の椅子のように、まず構造が見えてくるのではなく、先に有機的なフォルムが存在している。その感覚は、1945年当時としてはかなり革新的だったはずです。

特に印象的なのが、肘掛けから後脚へ繋がるラインです。ただ曲線を描いているのではなく、一本の木が自然に流れていくような感覚があります。さらに肘掛け部分はわずかにえぐるように削り込まれており、実際に肘を置いた時にも不思議なほど自然に身体へ馴染みます。この削り込みによって、造形的な美しさだけではなく、触れた時の感覚まで丁寧に整えられています。

そしてフィン・ユールの凄さは、それを単なる彫刻作品で終わらせなかったことです。実際に座ると、身体の受け止め方や肘の支え方まで非常に丁寧に考えられていることがわかります。つまりNV45には、抽象芸術への憧れと、家具として成立させるための強い意思が同時に存在しています。

その造形を実際の木工として成立させたのが、Niels Vodderの技術でした。複雑な接合、柔らかな曲線、そして浮遊感のある構造は、単なるデザイン画だけでは成立しません。木をどう削るか、どこまで細くできるか、強度をどう確保するか。その試行錯誤の積み重ねによって、はじめてNV45の形は成立しています。

NV45を見ていると、フィン・ユールの造形感覚だけではなく、それを本気で実現しようとしていた当時の工房文化まで感じます。デザイナーだけでは成立せず、木工職人たちの高度な技術と理解があって初めて生まれた椅子なのだと思います。有機的なフォルムの美しさは、そうした思想と木工技術の積み重ねの結果として生まれたものなのだと思います。


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