About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen(APストーレン) / Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1958
Material: Steel, Beech, Leather, Fabric
Size: W60-68 × D60-72 × H75-76 cm(Lounge) / W50-52 × D52-55 × H77-80 cm(Side)
Story
AP37「エアポートチェア」は、1958年にデザインされ、カストラップ空港(現コペンハーゲン空港)のラウンジや待合空間を彩ったシリーズです。公共空間のために設計されたこの椅子は、デンマークモダニズムが象徴する「人間中心の機能美」を具現化し、訪れる旅行者をデンマークデザインの世界へ迎え入れる役割を果たしました。
このシリーズには幅広のラウンジチェア(AP38/AP39)と、よりコンパクトなサイドチェア(AP40)が存在します。特にラウンジモデルには、フレームとシェルをつなぐ三角形のクロームパーツが特徴的に配され、構造的役割と装飾的効果を兼ね備えています。シェル内部にはブナ材が使用され、外装を支えるスチールフレームと融合し、堅牢性と軽快さを両立させています。
製造を担ったのは、張り家具を得意とするAP Stolen社でした。パパベアチェア(AP19)などと同様に、高度な椅子張り技術が応用され、均整のとれた張り地のフォルムを実現しました。1977年にAP Stolenが閉鎖した後は、1990年代にCarl Hansen & Sønが復刻生産を行い、CH401の型番で現代に受け継がれています。
この椅子は、木材に留まらず素材の特性を生かして設計するウェグナーの姿勢を示す代表作でもあります。耐久性やメンテナンス性が求められる空港という舞台で、スチールと木材の融合による合理的で美しい解決策を提示した点にこそ、彼のデザインの成熟が表れています。
「カストラップチェア」「エアポートチェア」という名称は、この作品を一枚岩の物語に閉じ込めてきましたが、実際にはラウンジチェアとサイドチェアのバリエーションを含む複合的なシリーズでした。公共空間における象徴的なデザインであると同時に、ウェグナーが新しい領域に挑んだ重要な転換点であったことが、このシリーズの最大の意義といえます。
