AP54 Easy chair | イージーチェア


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen(APストーレン)
Year: 1962
Material: Teak, Oak
Size: W60 × D64 × H74 cm / SH40 cm


Story

AP54イージーチェアは、1962年にハンス・J・ウェグナーによってデザインされ、APストーレンによって製造された作品です。彼の彫刻的な名作群とは異なり、この椅子は過剰な装飾を排した建築的な抑制と、素材そのものの誠実さを体現しています。アームレスのシルエットは、自由度の高い姿勢を可能にし、空間を圧迫しない軽やかさを備えています。

ウェグナーの1960年代は、オックスチェアやウィングチェアのような大胆な表現主義的作品と、AP54のように建築的で普遍的な作品が並行して生み出された時代でした。その二面性は、彼のデザイン哲学の奥行きを示しており、AP54は静謐ながらも強い存在感を放っています。

製造を担ったAPストーレンは、パパベアチェアなど複雑な張り作業を可能にした工房であり、ウェグナーにとって不可欠なパートナーでした。張地とフレームを明確に分離した構造は、APストーレンの高度な職人技によって実現され、フレームの精密な仕上げと張地の張り分けが見事に融合しています。

AP54は同時に発表されたAP55スツールと組み合わせることで、より柔軟な用途に対応できる設計でした。レセプションやロビーなどの公共空間に適した寸法と、シンプルで機能的なフォルムは、当時の建築的ニーズを反映したものです。揃いのスツールを用いることでラウンジチェアとしての快適性が増し、単体でも活躍する多用途性を備えていました。

今日、AP54は市場で非常に希少であり、現存例は限られています。その希少性は偶然ではなく、1960年代の変わりゆく市場心理や、APストーレンの閉鎖という歴史的背景に起因しています。静かに存在するこの椅子は、ウェグナーの幅広い才能と、デンマークモダン黄金期の多様な側面を物語る重要な証言者なのです。


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