Bellevue Chair | ベルビューチェア


About

Designer: Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1934
Material: Oak or Beech, Leather
Size: W47 × D53 × H82 × SH45 cm


Story

ベルビューチェアは、アルネ・ヤコブセンが1934年に手掛けたベルビュー・シアターのレストラン用にデザインされた椅子です。建築空間と一体化した総合芸術(Gesamtkunstwerk)の一部として構想され、空間全体の透明性や軽快さを損なわないように計算されたフォルムが特徴です。

この椅子は、背板が緩やかなS字曲線を描き、人体の自然なラインに沿うよう設計されています。ヤコブセンは明代の中国椅子の研究に影響を受けており、その要素を現代的なダイニングチェアへと昇華しました。伝統とモダニズムを結ぶ造形は、彼の教育者であったコーア・クリントの合理主義的アプローチを反映しています。

フレームにはオークまたはビーチ材が用いられ、蒸気曲げ木の技術によって軽快で優雅な形状が実現されました。座面には革が張られ、耐久性と快適性を兼ね備えています。背板は当時の技術的制約から一体成形ではなく、二分割された木材を接合して構成されており、戦前のクラフトと工業化の狭間を示す象徴的なディテールです。

ベルビューチェアは、アルネ・ヤコブセンとフリッツ・ハンセン社による最初の協働作品でもあります。この後のアントチェアやセブンチェアに代表される合板成形技術の革新へとつながる、歴史的な起点として位置づけられます。

また、同時期にデザインされた籐(ラタン)素材の「シャーロッテンボーグチェア」とは明確に異なるアプローチを取っており、ヤコブセンが素材や技術の多様な可能性を並行して探究していた事実を物語っています。ベルビューチェアは、軽快で建築的な椅子として、デンマーク・モダンの黎明期を告げる重要なアーティファクトといえます。

 

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