BO46 Sofa | ソファ


About

Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Bovirke(ボヴィルケ)
Year: 1946
Material: Solid teak (early) / stained beech (late), upholstery: wool fabric or sheepskin
Size: W 135 × D 73–76 × H 81 × SH 42 cm


Story

BO55(通称 46ソファ)は、戦後直後の1946年に発表されたフィン・ユールの転換点を示す作例です。彫刻的な量感を保ちながらも、視覚的な軽さを追求し、クッション部とフレームを“離して見せる”構成へと踏み出したことが最大の特徴です。二人掛けのコンパクトなスケールは、戦後の住空間に適した親密さを生み、居室の中心というよりも、動線やコーナーに柔らかく寄り添う配置を想定しています。

ユールの設計思想の核には、人の身体を計測し、姿勢を受け止める面の角度と厚みを最適化する人間工学的な視点があります。BO55の背とアームが連続するやわらかな曲面は、着座時の肩と肘の動きを妨げず、内部のクッション密度と外形カーブの整合によって、包み込むような支持感と開放感のバランスを実現しています。結果として、視覚的には軽やかでありながら、体圧分散の面でも無理のない姿勢を長時間維持できる座り心地を備えます。

構造面では、クッション量塊と脚部フレームを意図的に分節し、陰影を作ることで“浮遊する”印象を強めています。このアプローチは、初期の一体的な造形感をもつ詩人的作品群から一歩進み、部材の役割を明確化して見通しを良くするユール中期の論理へ接続します。視線がフレーム下に抜けるため、実寸以上に軽快に見え、限られた面積の室内でも圧迫感が生じにくいのが利点です。

素材選択は、時期によって脚部がソリッドチーク(初期)からステインド・ビーチ(後期)へと移行します。これは戦後の供給事情と価格帯の最適化を背景に、ユールの有機的造形と言語をより広い市場に届けるための合理化でもあります。ビーチを濃色に仕上げることで、ユールが好んだ落ち着いた木質感を保ちつつ、均質な加工性と安定供給を確保しています。張り地はウール系ファブリックが中心で、シープスキンで再解釈された個体も存在します。素材の表情とボリュームは、曲面の陰影を際立たせ、BO55の“柔らかい彫刻”としての性格を強調します。

デザイン史の文脈では、BO55はPoet Sofaで顕在化した彫刻的感性を、工業的生産に適う明快な構成へと翻訳した“洗練の段階”に位置づけられます。ボヴィルケとの協働により、展示ブースのトータル設計と併走しながら、チェアやテーブルとともにインテリアの合奏として提示されたことも重要です。個別の造形美を保ちつつ、シリーズとして住空間に配列できる寸法感と視覚密度が緻密に計画され、のちの産業的コラボレーションへ続く“設計と言語の標準化”の萌芽がここに見られます。

今日、BO55は二人掛けソファの原型の一つとして、空間の“圧を上げない主役”という難題に対する優れた解です。曲面が連続する背とアーム、浮いたように見える座と脚、そして素材の陰影がもたらすリズム。これらが穏やかに同居することで、現代の多様な住環境や小規模な商空間にも自然に馴染み、静かな気配で場の質を引き上げます。ユールが提示した「有機的フォルム」と「視覚的軽さ」の架橋は、BO55を通じてソファ・タイポロジーに定着し、その後のデンマーク・モダンの標準語として受け継がれていきます。

 

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