About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Bovirke(ボヴィルケ)
Year: 1952
Material: Teak, Rosewood, Beech
Size: W50 × D54 × H82 × SH44 cm
Story
BO63 ダイニングチェアは、デンマーク・モダンの巨匠フィン・ユールによってデザインされ、ボヴィルケによって製造された代表的な作品です。おおよそ1952年に製作されたとされますが、原型は1949年頃に構想されており、手工芸的製作から半工業的生産への移行を象徴する過渡期のデザインといえます。ユールは当時、ニールス・ヴォッダー工房で培った彫刻的な表現力を保ちながらも、ボヴィルケの生産体制に適合させるため、構造を合理化し、工業的な量産に適する形式を模索していました。
ユールの家具に共通する特徴である「構造分離の原理(Floating Elements)」は、本モデルにも明確に表れています。座面がフレームから独立して浮遊しているように見える構造は、視覚的な軽やかさと空間的な緊張感を生み出し、同時に生産効率を高める役割も果たしました。この分離構造は、複雑な接合を避けながらも彫刻的なフォルムを維持するための設計的工夫であり、ユールの有機的な造形思想を量産に結びつけた革新的な試みでした。
BO63の造形は、背もたれから後脚にかけての滑らかな曲線に特徴があり、木材の質感を最大限に生かしつつ、人体の動きに自然に寄り添う設計となっています。フレームにはチーク材やローズウッドのほか、ビーチ材を用いたモデルも存在し、市場や用途に応じた多様な仕様が展開されました。これらの木材選定は、ボヴィルケが国内市場と輸出市場を区別し、半工業化による品質統一を図る戦略の一環でもありました。
前身となるNV46チェア(ニールス・ヴォッダー製)と比較すると、BO63は曲面や接合の複雑さを抑えつつ、構造的・美的完成度を維持している点が特徴です。手工業の極致から工業化へと移行する過程において、デザインの純度を失わずに合理性を獲得したことは、ユールの才能とボヴィルケの技術力の融合を物語っています。
このモデルの成功は、フィン・ユールが1951年にアメリカ市場へ進出し、ベイカー・ファニチャー社と契約を結ぶ契機となった一連の工業化実験の成果として位置づけられます。BO63は、デンマーク国内での量産適応の試金石であり、その成果が後の国際的な展開を支えました。現代では、ハウス・オブ・フィン・ユールによって復刻され、当時の設計哲学と工芸的ディテールを忠実に再現しています。ボヴィルケが実現した「半工業化における職人技術」の到達点として、BO63はデンマーク・モダンの歴史の中でも極めて重要な作品と評価されています。