About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Bovirke(ボヴィルケ)
Year: 1953
Material: Mahogany, Teak, Pine, Brass, Laminate
Size: W315 × D45 × H195 cm(可変構成)
Story
BO71ウォールユニットは、フィン・ユールが1953年にデザインし、ボヴィルケ社によって製造された壁面収納システムです。1950年代デンマークにおける家具の工業化の潮流を象徴する作品であり、機能性と美学を兼ね備えたモジュラー家具の原点といえる存在です。
フィン・ユールは建築的な視点を持つデザイナーとして、家具を空間の中で自立した彫刻のように扱いました。BO71においても、その思想は「浮遊感」という形で具体化されています。床から離して設置されることで家具が軽やかに見え、空間に動的なリズムを生み出します。この構成は、彼が自邸や公共空間の設計で追求した「空間と家具の統合」という理念を、量産家具の領域で実現したものです。
構造面では、棚板を自在に調整できるメモリ付きの支柱と、真鍮金具による精密な固定機構が特徴です。これにより、使用者は収納や展示の目的に応じてユニットを再構成することができました。さらに、当時として革新的だったノックダウン構造(分解・組立可能構造)を採用し、輸出や大量生産に対応した点も特筆されます。この技術は、デンマーク家具が世界市場に進出する契機となった要素の一つでした。
素材の面では、マホガニーやチークなど複数の木材を意図的に組み合わせ、背景と棚板の色調を対比させることで立体的な浮遊感を演出しています。キャビネットの扉には、白・茶・黄色などのラミネート材が使用され、当時のモダンな生活様式に呼応する鮮やかな色彩を導入しました。また、取手やブックエンドなどの金具には真鍮が採用され、木材とのコントラストが作品に上品な輝きを与えています。
BO71は、フィン・ユールが芸術的理想と工業的現実を結びつけた代表的成果であり、ボヴィルケ社の国際戦略とともに北米市場でも高く評価されました。今日では、デンマーク・モダンにおけるモジュラー家具の先駆として、その影響は後続のシステムファニチャーや建築的インテリアにまで及んでいます。