About
Designer: <a href=”https://denmark-design.com/finn-juhl/”>Finn Juhl(フィン・ユール)</a>
Manufacturer: <a href=”https://denmark-design.com/bovirke/”>Bovirke(ボヴィルケ)</a>
Year: 1953
Material: Teak, Rosewood, Leather, Fabric
Size: W64 × D70 × H82 × SH45 cm
Story
BO72アームチェアは、フィン・ユールが自身の設計哲学を工業生産へと昇華させた象徴的な作品です。1953年、ボヴィルケとの協働により製造されたこのモデルは、彼の初期作品に見られる芸術的職人技から、量産を志向した合理的設計へと移行する過渡期を体現しています。
フィン・ユールは、従来の構造的機能主義とは異なる「彫刻家の思考法」に基づき、家具を芸術的なフォルムとして捉えていました。BO72においてもその姿勢は明確であり、「運ばれるものと運ぶもの」という原則のもと、座面と背もたれが木製フレームから独立し、あたかも宙に浮くような軽やかな印象を与えます。これにより、構造の堅牢さと視覚的な軽快さが見事に両立しています。
デザイン上のルーツは、1946年にニールス・ヴォッダー工房で制作された「NV-46アームチェア」にあります。BO72はその進化形として位置づけられ、ヴォッダーとの一点製作体制からボヴィルケによる工業的量産へと移行する象徴的なモデルとなりました。モデル名の「BO」は製造元ボヴィルケを示し、従来の「NV」からの変化は、ユールの製造体制転換を明確に物語っています。
構造面では、無垢のチーク材またはローズウッドが用いられ、脚部は床に向かって細くなるテーパー形状とわずかな外傾(スプレイ)を伴い、優雅な安定感をもたらしています。座面下のストレッチャー(貫)は細く削り出され、全体の軽快感を支える重要な要素です。特にアームから背もたれへの流れるような曲線は、彫刻的な造形美と機能的合理性を兼ね備えています。
ボヴィルケでは、ニールス・ヴォッダー時代の複雑な手加工ジョイントを、機械加工に適した合理的な接合へと再設計することで、品質を維持しながら量産体制を確立しました。これにより、ユールの造形美を損なうことなく、生産効率とコストの最適化を実現しています。BO72は、芸術性と工業性が高次元で融合した椅子として、デンマークモダンデザインの成熟を示す指標となりました。
1950年代のオリジナルモデルではチーク材やローズウッドが用いられ、張り地には布地または革が選択されました。現代のHouse of Finn Juhlによる復刻版では、サステナビリティの観点からオークやウォルナットが使用されています。製造地ヴェイエンでの再生産は、ボヴィルケ時代の伝統と技術を受け継ぐものであり、デンマーク家具産業のルーツへの回帰を象徴しています。
BO72アームチェアは、フィン・ユールが手工芸と工業化の両立を果たした歴史的転換点に立つ作品であり、その造形の美しさと構造的合理性は、今日においてもデンマークデザインの理想を体現し続けています。