Bookcase | ブックケース


About

Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Søborg Møbelfabrik(ソボーグ・モブラー)
Year: 1958
Material: Oak, Teak, Ash, Steel
Size: W122 × D26 × H159.5 cm


Story

ボーエ・モーエンセン(Børge Mogensen, 1914–1972)がソボーグ・モブラーのために設計したブックケースは、デンマーク・モダンにおける「ビルディング・ファニチャー(Building Furniture)」思想の核心に位置する作品です。モーエンセンは師であるカーレ・クリントの機能主義を継承しつつ、人々の生活の変化に柔軟に対応できる家具を目指しました。その思想は、ソボーグ・モブラーの熟練した木工技術と結びつき、合理性と人間中心主義を融合させた書棚システムとして結実しました。

1958年に設計されたモデルBM0253は、従来の木製キャビネット構造とは一線を画し、細身のスチールフレームを支持体として用いたモジュールシステムでした。この構造により、棚やキャビネットモジュールを自由に組み替えることが可能となり、家庭環境の変化や空間構成の改変にも柔軟に対応できる設計となっています。単なる収納具ではなく、空間の建築的要素としての役割をも兼ね備えた点において、この作品はモーエンセンの合理的設計思想の象徴といえます。

一方で、1960年代に製造された木製ボックス型のブックケースは、ソボーグの伝統的な指物技術が存分に発揮されたクラフト的作品でした。オークやチークといった高品質な広葉樹が使用され、引出しには「埋め込み式ハンドル」を採用するなど、造形の純粋性を損なわない設計がなされています。これらのモデルは、高さ159.5 cm、幅122 cm、奥行き26 cmという人間工学的に計算された寸法で設計され、使用者の生活動線に配慮した理想的なプロポーションを実現しています。

ソボーグ・モブラーは1890年創業の伝統的な指物師工房でありながら、モーエンセンとの協働を通じてモジュール化と量産化の流れを取り入れました。この柔軟な体制が、職人技と工業化の橋渡し役となり、同社の製品群における品質と効率の両立を可能にしたのです。ブックケースの製造は1950年代後半から1970年代にかけて広く行われ、今日でもヴィンテージ市場において高い評価を受けています。

現代では、カール・ハンセン&サンがデザイン権を継承し、BM0253システムをリイシューしています。オリジナルの精神を引き継ぎながら、FSC認証木材やパウダーコーティングスチールなど、現代の環境基準を満たす素材が用いられています。これにより、モーエンセンの「人々の生活に寄り添う家具」という理念は、時代を超えて新たな形で息づいています。

モーエンセンのブックケースは、クラフトと工業化、伝統と合理性という相反する価値を見事に統合した、デンマーク・モダンの象徴的作品です。その普遍的なデザインは、現代の空間においてもなお、新鮮な機能的美を放ち続けています。

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